「定年後は故郷で」 妻が拒否、どうする?
作家、大石静さん
中部地方にある町で生まれました。会社も定年を迎え、故郷に帰りたいと思いますが、妻に一蹴されました。妻は神戸市などで育ち、東京が実家。「なぜ私が田舎に住むのか」と怒りました。都会育ちは地方嫌いなのでしょうか。(東京都・60代・男性)
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あなたの故郷に行きたくない奥様の気持ち、私にはよくわかります。あなたにとって故郷は兄弟や親戚がいて、幼馴染もいて、懐かしく美しい山河もあって、若き日の様々な思い出もあって、心地よいところなのでしょう。
しかし、奥様にとっては知り合いもいない、友人もいない土地ですよね。あなたの親戚や知り合いに囲まれて暮らす切なさを、あなたは想像したことがありますか?
これは「都会育ちは地方都市を嫌いなのでしょうか」というような問題ではありません。奥様の側からものを見ることのできない、あなたの想像力の乏しさに問題があるのです。
質問の文面から想像すると、あなたはそんなに傲慢(ごうまん)な亭主関白とは思えません。でもあなたの心の奥底には、妻なら黙ってついて来てほしい、という想いがあるのだと感じます。だからガッカリなさっているのでしょう。
ちなみに、私の夫は東北の出身です。もし夫が「この先は故郷で暮らしたい」と突然言い出したら拒否します。夫が言い張れば離婚か別居になるでしょう。今いる東京には私が培った人間関係も仕事もあり、それをアッサリ手放すことはできないからです。夫との暮らし以外のところにも、私の人生はあるからです。
奥様の人生にも歴史があるということを、今一度、認識なさって下さい。
そして、これはいい機会だと思って、これから先の生き方について、奥様と本音で話し合われてみたらどうでしょうか?
定年になったら故郷に帰りたいと前から思っていたなら、それを奥様に話していましたか? そうではないですよね。だから奥様は即座に否定されたのでしょう。長い時間をかけて気持ちを伝えあっていれば、奥様はあなたと一緒に行動する気になったかもしれません。あるいは、あなたも故郷に帰る話を言い出さなかったかもしれません。
せっかく何十年も一つ屋根の下で生きてきたご夫婦なんですから、これを機会に、いろいろなことを言葉に出すことを意識されたらどうですか。夫婦は言葉を超えたものだとも思いますが、語らなければわからないことも多いと思うのですよね。
故郷に行くかどうかの結論は、それからでしょう。
[NIKKEIプラス1 2020年8月15日付]
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