匂いを感じないコロナ嗅覚障害 回復治療は未確立

日経ナショナル ジオグラフィック社

新型コロナならではの特徴

嗅覚の働きは、化学情報の解読だ。私たちが匂いを吸い込むとき、匂い分子が鼻の穴に入り、その奥にある嗅上皮(きゅうじょうひ)という小さな組織に到達する。そこで匂い分子は嗅覚ニューロン(神経細胞)に結合し、軸索という長い突起を介して脳に信号が送られ、コーヒー、革、腐ったレタスの匂いなどとして認識する。

科学者たちは、嗅覚系やその障害について、まだ完全には理解していない。そしてほとんどの人が、嗅覚障害がどれほど一般的なものであるかを理解していない。

インフルエンザや風邪のようなウイルス感染症にかかったり、外傷性の脳損傷を受けたりすると、私たちは嗅覚を失うことがある。生まれつき嗅覚がない人もいれば、がんの治療やパーキンソン病やアルツハイマー病で嗅覚を失う人もいる。年齢とともに嗅覚が衰えることもある。

嗅覚障害は聴覚や視覚の障害のように目立つものではないが、米国立衛生研究所(NIH)のデータによると、40歳以上の米国人の約25%が嗅覚の変化を報告しており、1300万人以上に嗅覚の完全または部分的な喪失があるという。嗅覚障害は何年も続き、生涯にわたることもある。

新型コロナウイルス感染症による嗅覚障害が、ほかのウイルスによって引き起こされる嗅覚障害と同じものなのか別のものなのかは不明だが、いくつかの特徴があるように見える。第1に、ウイルス性の一般的な嗅覚障害では初期に鼻詰まりがあるのに対し、新型コロナウイルス感染症ではいきなり嗅覚が失われる。

もう1つの注目すべき違いは、ほかのウイルスによる嗅覚障害が数カ月から数年にわたって続くことが多いのに対し、新型コロナウイルス感染症では、もっと早く、数週間程度で治癒する場合が多いことだ。

しかし、3月にコロナに感染したクアッギさんの嗅覚は、8月上旬になっても60%程度しか回復していない。最初の頃は、嗅覚がいつ回復するのか、そもそも回復するのかに関する情報がなくて怖かったという。

嗅覚への影響

科学者たちはまだ、新型コロナウイウルスがなぜ嗅覚障害を引き起こすのか、また、ほかのウイルスとは違ったやり方で嗅覚系に影響を及ぼすのかという疑問を掘り下げはじめたばかりだ。

鼻は、新型コロナウイルスが体内に入る主な場所の1つである。研究者たちはすでに鼻の杯細胞(さかずきさいぼう)と線毛細胞(せんもうさいぼう)という2種類の細胞がウイルスの侵入口になっている可能性が高いことを確認している。嗅覚障害と味覚障害を研究している米モネル化学感覚研究所のダニエル・リード副所長は、「ウイルスは副鼻腔(ふくびくう)組織から入って、肺に流れ込んでいくようです」と言う。

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