同氏によると、オスには染色体が1セットしかないため、遺伝子に今回の黄色い目のような珍しい変異が起きると必ず発現する。
今回のような目の色の変異はかなり珍しいものの、まったく初めてというわけではない。たとえば1953年に、ミツバチの目の色の変異に関する研究が報告されている。
「生物には奇妙なことが起きる」
しかし、今回のハチの雌雄モザイクを説明するのは簡単ではない。
右半身がオス、左半身がメスといった左右対称の雌雄モザイクの場合、卵が受精する前に分裂した可能性が高いと、ターピー氏は言う。
だが、今回の奇妙なミツバチは、両性の形質が混在した雌雄モザイクであり、発生の後半に異常が起きた可能性がある。何が起きたのか、正確にはわからない。「ご存知のように、生物には奇妙なことが起きるのです」と同氏は話す。
鳥やチョウの雌雄モザイクはカラフルではっきりわかることもあるが、すべてがそんな風に容易に識別できるわけではない。
エリン・クリチルスキー氏は、パナマのスミソニアン熱帯研究所で働いていた時、体長4ミリという極小のコハナバチの左右対称の雌雄モザイクを発見したことがある。このときは顕微鏡が必要だった。
そのコハナバチの大顎が、左はメスの特徴である大きなもので、右はオスの特徴である小さなものであることに気がついた時、彼女は文字通り研究室中を全力で走り、見つけたものを全員に見せて回った。
同氏のコハナバチに関する研究成果は、2020年2月に学術誌「Journal of Hypmenoptera Research」に掲載された。「こうした変異は過小評価されていると、私は思います」とクリチルスキー氏は語る。例えば、このようなオスとメス半々の個体は、新たな形態や行動に至る進化の前兆なのかもしれないと、同氏は言う。この変異が、寿命や生殖能力にどう影響するかは不明だ。
黄色い目をした特殊なミツバチに関しては、標本として瓶に保存したとズグルジンスキー氏は言う。残酷に聞こえるかもしれないが、この盲目のハチはやがて死ぬか、巣を追われた可能性が高いと、同氏は言う。
「標本として残してくれたことをうれしく思います」と、クリチルスキー氏は語る。「これら両方の変異が起きている例は、おそらく当分見られないでしょう」
(文 JASON BITTEL、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年8月7日付]