新型コロナ禍のインドネシア 1枚の写真が与えた衝撃

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/8/28
ナショナルジオグラフィック日本版

新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者の遺体が、インドネシアの病院の一室に安置されている。感染を防ぐため、看護師がプラスチックのシートで遺体を密封し、消毒した(PHOTOGRAPHS BY JOSHUA IRWANDI)

フォトジャーナリストのジョシュア・イルワンディ氏は、インドネシアの病院で働く人々への密着取材を行い、プラスチックシートで全身を包まれた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で亡くなった犠牲者をとらえた印象的な1枚を撮影した。撮影にあたっては、被写体となった人物の特徴や性別がわからないよう、細心の注意を払った。

ナショナル ジオグラフィック協会の支援で、ナショジオの記事(2020年8月号「パンデミックと闘い続ける人類」)のために撮影されたこの写真は、インドネシアに暮らす2億7000万の人々の心を揺るがした。今回のパンデミック(世界的な大流行)に対して、インドネシア政府は消極的とも思える姿勢を見せていた。20年3月には、ジョコ・ウィドド大統領が、効果が証明されていないハーブ療法を勧めていると報じられた。

ウイルスによる苦しみを人間の姿として提示したイルワンディ氏。彼の写真に対する反応は様々だった。

イルワンディ氏の写真がテレビのニュース番組で紹介されると、同国のコロナウイルス対策チームの広報担当が拡散。さらに他のメディアも、イルワンディ氏の同意を得ないまま、ニュース画面をキャプチャーしてすぐに報道に利用した。そして、米国でナショジオの記事が20年7月14日に公開されると、イルワンディ氏のインスタグラムの投稿に34万人以上が「いいね」を押す。ちなみに米ナショジオのインスタグラムにもこの写真は投稿され、数時間で100万の「いいね」がついた。

「写真をきっかけに、コロナウイルスについての議論が活発になったことは間違いありません」と、インドネシアの自宅でイルワンディ氏は語った。「わたしたちは、医師や看護師のみなさんが払っている犠牲と、彼らがさらされているリスクを認識すべきです」

米国際写真センターの名誉館長フレッド・リッチン氏も、イルワンディ氏の写真が議論の突破口となったことは間違いないと言う。「まるでミイラのように体をぐるぐる巻きにされているのです。誰もが目を背けることができず、またコロナの恐怖も感じます」

さらにリッチン氏は、遺体との間の距離感にも言及する。「私はこの写真を見て、だれかが放り出されて透明なシートで包まれ、消毒液をかけられ、ミイラのようにされ、人間性を奪われ、何か別のものにでもされてしまったと感じました。誰しもウイルスに近づきたくはありません。だから、ウイルスに感染した人を、自分たちとは別の何かに仕立てたのでしょう」

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