エンタメ要素加え障害体験 共生社会めざす施設が続々
ダイバーシティや多様性の確保といった言葉をよく聞くようになったが、身近では実感するのが難しい。しかし最近、エンターテインメント的な要素を加えて障害を疑似体験しながら知ることができる施設ができはじめている。夏休みに訪れてみてはいかがだろう。
7月1日、東京・墨田の丸井錦糸町店5階に「ミライロハウスTOKYO」がオープンした。ユニバーサルデザインのコンサルティングなどを行うミライロ(大阪市)が運営する情報発信・体験型店舗で、障害がある人に向けた最新のサポート用品を展示している。
メガネのツルに取り付け、カメラで認識した文字を読み上げる視覚支援デバイス「オーカムマイアイ2」などずらりと並んだ各種製品は、障害者も健常者も実際に使用体験ができる。「障害者向けの新製品は日々開発されているが、当事者に情報を届けられる場所がないのが問題だった。この店舗で問題を解消しようと考えた」と、ミライロの森田啓ビジネスソリューション部長は話す。
同じフロアにはごく普通に洋品売り場などがあるため、障害者以外の客にも自然に店が目に入る。「オーカムマイアイ2をはじめ、近年、音声読み上げ機能を備えた視覚障害対応機器が多いが、まだまだ知られていない。ふらりと立ち寄ることで、こうした先進機器に関心を持ってもらいたい」と森田氏は続ける。
国全体の高齢者の増加もこうした店が必要になる原因だ。同店の金井勇樹チーフは「接客をしていると『最近知り合いが車いすになった』といった声を聞くことがある。誰もが当事者になる可能性がある今、この店が障害をわがこととして考えるきっかけになればいい」と話す。
新型コロナウイルス感染症の予防のため延期になっているが、障害があっても遊べるコントローラーを使ったゲーム大会などイベントも今後開催していく予定だ。また、セミナーを通して性的少数者(LGBT)など、ダイバーシティにまつわる多様な情報発信や交流会も開催する。
8月23日には東京・浜松町にダイアログ・ミュージアム「対話の森」がオープン予定だ。こちらは視覚障害者とともにつえを使いながら真っ暗な屋内を進んでいく「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」や同じく音のない世界を楽しむ「ダイアログ・イン・サイレンス」などが体験できるエンターテインメント施設だ。
ダイアログ・イン・ザ・ダークは1988年にドイツで生まれ、すでに世界で800万人、日本で22万人以上が体験した。感染症対策のため、人との距離が近くなりやすい「ダーク」は明かりをともした状態にするなど、プログラムを一部変更している。
施設を運営するダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村真介理事は「見えないことや、聞こえないことはネガティブに思われがちだが、当事者にガイドされながら体験すれば、必ずしもそうではないことがわかる」と話す。
ダイアログ・イン・サイレンスを一足早く体験してみた。聴覚障害者で案内役のRIMIさんから手渡されたヘッドセットを装着し、聴覚を遮断する。
会話や手話は禁止で、手を使い参加者全員で影絵遊びをする「手のダンス」などを体験。言葉が使えず不安だったが、次第に緊張がほぐれ、表情やしぐさでかなりの意思疎通ができることに驚いた。
当日はコロナ対策のためマスクを着用。相手の目もとしか見えないので、表情などが読み取りにくかった。ウイズコロナの現在、聴覚障害者が直面している困難を想像することもできた。
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村季世恵代表理事は「ダイバーシティは、実感しないとわからないことも多い」と話す。楽しみながら当事者の立場を体験できる施設に足を運ぶことは、多様性を社会に定着させる近道になりそうだ。
(ライター かみゆ編集部 小沼 理)
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