中小の旅行会社や有名アパレルブランドが内定を取り消すなどの報道もあった。10月には内定式が控えている。当たり前だが入社できる会社は1人1社だ。ある就活サービスを手がける会社の関係者は「複数の会社の内定を承諾した学生が、この後辞退をする動きが大量に出てくるのでは」と分析する。

こうした動きは決して珍しいことではない。採用コンサルタントの谷出正直氏は「リーマン・ショック後、不安視した一部の学生が複数社の内定を入社直前まで持ち続けていた事例も見られた」という。22年卒の学生でもこうした防衛策に走る姿が見られるかもしれない。

会社説明や面接はオンラインが主流になり対面の場はまれになった(3月に千葉市で開かれた会社説明会に向かう学生たち)

「受けられる会社が増えて、交通費もかからなくて本当に助かった」

金融の内定を獲得し就活を終えた関西地方の大学に通う男子学生はこう振り返った。コロナ以前は交通費の出費は痛かった。企業によっては交通費は支給されるものの、後日精算というところも多く、一人暮らしの身では生活のやりくりに苦労していたという。

しかし、コロナ禍で就活の舞台はネットに移った。資本力のある大手企業などは、会社説明会や社員座談会などのイベントをネット上で開いた。場所にとらわれることなく就活が可能になり、企業が集積する都市部の学生に対して出遅れていた地方大学の学生にも平等にチャンスが訪れた。

オンライン面接のメリットはそれだけではない。都内私大院の女子学生は「慣れないヒールの靴擦れの痛みに耐えながら歩き回る必要がない。上だけジャケットを着て下はジーパンにすれば、ストッキングもはかずに済む」と明かす。

企業にとっても利点は大きかったようだ。ある食品メーカーでは従来の対面での面接の場合、学生の出席率は8割だったが、オンラインに切り替えてから9割以上に高まったという。オンライン面接システムを提供するスタジアム(東京・港)ではシステムの導入企業数がコロナ前後で2.5倍に増えた。感染第2波の懸念が強まる中、同社は「オンライン面接の需要が減ることは考えられない」とみている。

ディスコが7月上旬、企業向けに21年卒の採用見込みについて聞いたところ、「採用を減らす」と答えた企業は28%と2月の調査に比べて17ポイントも上昇した。採用市場の考え方についても「完全に売り手市場だと思う」が8%と20年卒に比べ、56ポイントの大幅な減少に転じた一方で「どちらでもない」が27ポイント増の30%となった。企業側の市場を見る目は明らかに変わった。

就活はこれまで政府が定めたルールである「3月説明会解禁、6月選考解禁」にのっとって展開されてきた。新型コロナはまさにこの時期を直撃し、学生のみならず企業も翻弄された。

そんな中、新たな動きもあった。経団連は8月1日、初の就職活動イベント「産学共同ジョブ・フェア」をオンラインで開いた。夏以降も採用機会を設ける企業を集め、実質的な通年採用の拡大につなげる考えだ。

新型コロナの収束はいまだ見えていない。これまでの常識にとらわれない採用手法が取り入れられ定着していかなければ、学生も企業も、混乱を極めた21年卒就活の二の舞いを演じることになるだろう。

(企業報道部 鈴木洋介)

[日経産業新聞 2020年8月12日付]

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