ぱっと思い浮かぶのは、「種子の散布」だ。鳥に食べられた果物の種が運ばれて、フンとして地上に落ち、芽吹く、といったイメージ。

「もちろん、それもあります。でも、僕がよくやっている研究は、海鳥でして、林野庁で海鳥とは何たることかというふうによく思われがちなんです。海鳥っていうのは、実は海で食べ物は食べますけども、巣をつくって繁殖するのは森林とか、陸地です。僕が扱ってるのは、まさに林野庁が所管する国有林の中で繁殖しているような鳥たちなんです」

ここで、川上さんの立場にすーっと筋が通った。

茨城県つくば市にある国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所を訪ねた

森林総合研究所で鳥を研究する川上さんは、所轄の林野庁が管理する国有林の中で繁殖する鳥たちを研究している。その中には、海鳥もいる。そういう話である。

「鳥が持っている生態系の中での機能として、種子の散布や、花粉を運ぶことのほかに昆虫を食べるというのもありますね。ある昆虫が増えすぎないようにする。また、森で営巣する海鳥の場合、フンをすることも大きいんです。海で魚やイカなどを食べて、陸でフンとか尿とかをすることによって物質を循環させる機能です。海鳥がいる場合と、いない場合では、物質循環が変わってくるんです」

だんだん話が大きくなってきた。

海鳥は、海で食べて、陸でフンをし、海の物質を陸上に持ってくる。窒素やリンというのは、つまり、そのまま肥料であり、森の成長に大きな役割を果たしているに違いない。

川上さんにとっての小笠原の島々は、まさにこういったことを研究する場でもある。

「格好のフィールドがあります。小笠原諸島に南硫黄島という島があって、急峻な地形のせいで、これまで人が定住したことがありません。一方で、近くの北硫黄島には戦前に人間が50年間ほど住んだことがあって、そのためにネズミが入りました。結果、海鳥であるミズナギドリの仲間が全部いなくなっているんです。同じような地形の環境なので、海鳥がいる物質循環と、海鳥がいない物質循環を比べることができるんです。南硫黄島の調査は10年に1回なんですけど、前回は2017年で、いろいろサンプルを取ってきたところです」

南硫黄島の調査は、東京都、首都大学東京、日本放送協会が協定を結んで行ったもので、川上さんは「鳥担当」として、2007年に続き2度めの参加となった。2017年の調査について、研究成果が出るのはこれからだが、すでに東京都が速報を出している。それによれば、ランの新種(ラン科クモキリソウ属の一種)、陸貝でおそらくは新種の1種(リュウキュウノミガイ属の1種)、かつて記録されたことがあるがその後見つからなかった昆虫(ミナミイオウスジヒメカタゾウムシ)など、発見が相次いだ。

鳥類に関しては、ドローンを使った調査で、アカアシカツオドリの集団営巣地を国内で初確認した。以前から、崖上の木々に多数の個体がとまっているのは確認されていたが、今回の調査ではドローンを使うことで、近くからの撮影に成功し、営巣しているのが確認できたのだった。

アカアシカツオドリ(写真提供:川上和人)

こんなふうに、新発見、再発見、営巣の確認などが相次ぐ調査というのは、滅多に立ち入ることができない隔離された無人島ならではだ。19世紀の博物学時代を思わせる。ちょっと血湧き肉躍るかんじがする。

学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
注目記事
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
Mirai アーカイブズ