娘に何を教えるべきか?
作家、石田衣良さん
小学1年生の娘にどんなことを教えるべきか、日々悩んでいます。というのも、自分の父は口数が少なかったので、思い出がありません。娘の普段の話を聞いたり、友達の父親と会話したりして知ろうとしています。父親としてこれでよいのでしょうか。(神奈川県・40代・男性)
◇ ◇ ◇
街の書店に行くと、教育評論家や児童心理学者、それに子育てに成功した(?)親たちが書いたアドバイス本がうんざりするほどあふれています。個性豊かで成績も上々、大人と明るくコミュニケーションがとれる、理想のわが子に育つ夢のノウハウ本です。兄弟すべてを医学部に進学させた教育ママ&パパとか、みんな大好きなんですね。
ぼくも子どもが生まれたとき、何冊か目を通したことがあります。でも、すぐに放り出して古本屋送り。ぜんぜん役に立ちそうもなかったからね。子育ては実際に経験中のあなたもよくご存じの通り、こぎれいなエピソードで、気もちよく読めるわかりやすい本になんて、絶対に収まらない摩訶不思議(まかふしぎ)で奇々怪々の経験なのです。もっともらしい聞こえのいい話を、簡単に信じてはいけません。
あなたは父親似の口下手で、娘とうまく話ができない。何を話したらいいのかわからなくて、聞き役に回ってしまう。それもまたいいのではないですか。お嬢さんからしたら、うちのパパはいつも話をよく聞いて、こちらの気もちを大切にしてくれるいいパパに見えているはずです。言葉が少ないなりに、あなたにとって人として大切なことは何かを、丁寧に話してみるといいのではないですか。
子育てに正解はありません。生まれつき才能があり、スポーツや芸能などで、早くから頭角を現したスターたちが、支配欲の強い親と深刻な問題を抱えていることは珍しくありません。破綻(はたん)しそうな親子関係でも、子どもが有名になったら、子育ては大成功と言えるのでしょうか。
愛情と支配を混同して、正しくあるべき形に、子どもを切り刻む親も決して少なくないのです。支配型の親よりも、あなたのように日々悩みながらも慎重に子どもに関わっていく方が、明らかに教育上の弊害は少ないものです。
最後に親の先輩としてひと言。子どもが天才的にかわいいのは、どんな子でもせいぜい10歳(プラスα)くらいまで。10代も半ばを過ぎれば、親との外出など面倒というようになるので、それまで最上の贈りものであるお子さんの「かわいさ」を、存分に楽しんでください。少し気弱だけど聞き上手の優しいパパなんて、最高だとぼくは思うな。
[NIKKEIプラス1 2020年8月8日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。