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「飛ぶ」ってすごいぞ 鳥類学、骨が語る多様な進化

森林総合研究所 鳥獣生態研究室 川上和人(1)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物の研究に迫る人気コラムです。今回は鳥の進化や生態系での役割などについて鳥類学者の川上和人さんが解説するシリーズを転載します。空を飛ぶ能力ゆえの「すごさ」「面白さ」にハッとさせられます。

◇  ◇  ◇

鳥の研究に魅せられて、無人島で過酷な調査を行い、鳥の進化の妙に思いをはせ、ベストセラーをものす。そんなマルチな活躍を続ける注目の鳥類学者、川上和人さんの研究室に行ってみた! (文 川端裕人、写真 内海裕之)

茨城県つくば市にある国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、その名の通り、森林に関する研究所だが、なぜか鳥獣生態研究室という部署がある。それどころか、立派な鳥の標本収蔵庫まで備えている。国立科学博物館や山階鳥類研究所など、標本を多く持っていてしかるべき機関には及ばないものの、それでも国内では五指に入る規模だというから驚かされる。

ベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の著者で、この収蔵庫の「主」でもある川上和人主任研究員に案内してもらった。

きっかけは、川上さんが「すごい」と思う鳥についての話題だ。川上さんは、前出の書籍でも「鳥が特別に好きなわけじゃない」と公言している。にもかかわらず、鳥の研究の話を始めると、最初は飄々とした語り口の中にやがて熱がこもり、高温の青い炎を周囲に撒き散らすがごとき様相に至る。

「鳥って、まず、飛ぶってことがすごいなと思います。飛ぶのは、とんでもなくエネルギーを使うことなので、飛ばないですめば飛ばないほうが絶対よいはずなのに、恐竜の中のとあるグループが、飛ぶように進化した。昆虫のように、小さくなれば小さくなるほど、体重と表面積の関係で飛びやすくなるのに、鳥が大きな生物なのに飛ぶようになったっていうのは、もうすごいとしか言いようがないんです。まだはっきりとは明らかになっていないけれど、ものすごく大きな理由があったと思います」

やや早口の語りの中で、「鳥、すごい」と連呼している。

川上さんは、鳥の本質的な部分を「飛ぶように進化した」ことだと捉えている節があり、そのことに魅了されているようにも感じられた。つまり、「特別に好きじゃない」というのはあくまでもポーズで、実は相当、好きなのでは、という疑惑が湧いてくる。

その点を突っ込んでみると、「好きというよりも、すごいと思う鳥はいっぱいいますよ」とあっさりと認めた。実は、その「すごい」と「好き」の間には微妙な違いがあるはずなのだが、とにかく魅了されていることには違いない。ここではまず川上さんが選定する「すごい鳥」について耳を傾けよう。

「僕は生きている鳥よりも、死んだ鳥の方が好きなんですよ。じっくり見られるから」などと、まずは人を食ったトーンで語りつつ、川上さんはキャビネットの引き出しを引いた。

いわゆる仮剥製、鳥の内臓や筋肉を抜き取った上で防腐処理を施し、きれいに縫い合わせた標本がたくさん出てきた。研究用の標本は、生きている時の姿のように固定するのではなく、計測しやすい仮剥製の方がよいとされる。博物館の展示で見るようなポーズを取った剥製は、むしろ「見せるため」のものなのだそうだ。

ただし、川上さんの目当ては、研究者御用達のはずの仮剥製ではなかった。

一番奥のキャビネットの引き出しから出てきたのは、透明なビニール袋に小分けされた骨である。1羽分がひとつの袋におさめられている。

「鳥の標本って仮剥製が多くて、骨の標本は少ないんですよ。僕は自分の研究のために骨の標本が欲しかったので、自分でつくり始めたんです。飛んでいる鳥を観察しても、なかなか細かいところは見れないわけですけれども、骨ならいくらでも見れる。で、骨は硬いからいくらでもとっておけます。生きてる鳥を100個体比較するのは難しいけれど、死んでる鳥の骨であれば、100個並べて、お、ここの角度が違うとかっていうことができるわけじゃないですか。それはもう大きな魅力ですよね」

袋から鳥の骨を取り出して手のひらに載せたまま、川上さんはこんなふうに語り起こした。

「それで、すごいなと思うのは、アマツバメですね。飛ぶことに特化していて、それこそヨーロッパのシロハラアマツバメでは6カ月間地上に降りなかったとかいう記録がありますけれども、上腕骨がすごく短いんですよ。鳥って、人間で言えば肩から肘までにあたる上腕骨には、飛ぶために必要な風切羽(かざきりばね)はついていなくて、肘から先に風切羽があるんです。アマツバメは、上腕骨を極端に短くして、風切羽のある部分の割合を大きくして、おまけに足も短くて、飛ぶことに特化しています。翼を折りたたんだら長い羽根が邪魔になったり、足が短いと引きずったりしますから、地上で歩いたり、木の上にとまったり、何か障害物があるようなところで生活しようと思ったらこの形態は成立しないんですよ」

ほとんどの時間を飛んで過ごすアマツバメは、空を飛ぶ鳥の本質をきわめたような存在なのである。それが、川上さんが言う鳥の「すごい」の一例だ。

その一方で、鳥は進化の中で飛べなくなったり、あるいは飛べても、ちょっと違うアプローチを取ることもある。

「我々、ニワトリの胸肉を食べますよね。ニワトリは飛ばないってみんな思ってるけども、もし本当に飛ばない鳥だったらあんな筋肉はついてないんです。ダチョウみたいに胸肉がほとんどなくなるのが普通です。つまり、ニワトリは飛ぶ鳥の形態を持っているんです。ただし、ちょっと異常です。鳥の筋肉って、普通は赤いんですよ。長距離を飛ぶために酸素をたくさん使うのでミオグロビンが大量に含まれていて。でも、ニワトリをはじめとするキジ目の鳥の筋肉って、ピンクです。人間でも赤い筋肉は長距離走者に多くて、白っぽい筋肉は短距離走者に多いわけですけど、ニワトリを含むキジ目の鳥もまさに短距離型、瞬発型で、一気に筋力を使ってボンって飛んで、100メートルとか先で降りてくるわけです」

それを可能にする骨の構造もやはり、とても特徴的なものだ。川上さんは、なんだか嬉しそうにニワトリの胸骨を差し出して「無茶苦茶なんです」と表現した。

「胸肉を骨ごと揚げてあるフライドチキンなどで、見たことある人も多いと思うんですけど、胸骨の形がもう無茶苦茶なんです。普通、鳥の胸骨って、平面になっている部分の上に筋肉がのるんですよ。そうやって筋肉を支えてます。でも、ニワトリの場合、それが平面じゃなくて枝状です。恐らく枝の部分がバネの役割をして、瞬発力を出すことができるんですよ。ギュッとためてボンって飛べる。でも、長距離を飛ぶためには、支えがしっかりしていたほうがいいんです。硬くないとやっぱり駄目なんです。自転車のサスペンションが柔らか過ぎると、ジャンプはできるけれども、フニャフニャして漕ぎにくいっていうのと同じです」

同じ「飛ぶ」にしても、進化の中でニワトリが選んだのは、短距離走者的なスプリント能力だったというわけだ。それが胸骨の形にも現れている。「飛ぶ」というキーワードについて、一筋縄ではいかないものを感じる。

さらに、川上さんは、空を「飛ぶ」だけではすまないとんでもない能力を持ったスーパーバードの存在を指摘した。

「僕が直接見て、『すごいな』って思う鳥はやっぱりいて、それは例えばミズナギドリです。1日に数百キロ移動することもできるし、地上では1メートル、自分の身長の5倍もの穴を掘ってそこで巣をつくったりするわけです。しかも、海の中では、泳ぎのエキスパートである魚を追いかけて食べてるんですよ。それが1個体でできちゃう。骨を見ていてすごいと思うのは、潜水性に応じて、上腕骨(肩から肘)の骨の断面が扁平になっているんですよね。単に構造的な強さを考えると、断面は円がよいはずなんですが、より流線型に近くするためと考えられます」

以上、川上さんによる、鳥の「すごさ」についての導入部だ。

自ら作った骨の標本を見ながら教えてもらったことが多く、なにか解剖学寄りの話になった。同時に、川上さんは常に進化についての意識が強くあり、鳥の進化をめぐる進化生物学的な話を聞いたようにも感じた。

その意識のまま標本室から引き上げて、川上さんの執務室を訪れると、ちょっと不意を突かれた。

天井はコンクリート打ちっぱなしで、そのままでは殺風景だ。川上さんは、パーティションで区切られた自分のスペースの上に、スチールの格子を取り付けて、そこから様々なものを吊り下げていた。

カラビナやエイト環といったクライミング用具。トレッキングシューズやヘルメット。そして、防水防塵タイプのコンパクトデジタルカメラなど。これらは、フィールドワーカー、それも、かなり厳しい調査地を頻繁に訪れる人の装備だ。

「僕は小笠原での海鳥の研究が多いんですけど、海鳥っていうのは、食べ物は海で食べるのに、巣をつくって繁殖するのは陸地ですよね。つまり、海から陸地に、窒素だとかリンだとか持ってくるわけです。他の場所で体に植物の種子を付着させて持ってくることもあります。ですので、海鳥も島の森林生態系の一部です。小笠原は、今、世界自然遺産に登録されていて、その保全管理の責任があるので、生態系の調査が必要なんです。これは、僕が、この森林総合研究所で、なぜこういった研究をやるのかという理由でもありますね」

ここで川上さんは、フィールドの生態学者としての顔を見せた。さっき骨を見ながら話を聞いた時とはかなり印象が違う研究領域だ。

進化という時間的スケールの大きな話と、生態系という一個体だけではすまない空間スケールの大きな話が、ここで合流していることに気づき、わくわくする。

鳥をめぐる「すごい」物語が、これから明らかになる予感がしてならない。

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2018年3月に公開された記事を転載)

川上和人(かわかみ かずと)
1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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