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ゼロリスクは無理でも、ゼロに近づける明確なルールを

私ももちろん、コロナ感染を100%防げるスポーツの試合が開催できるとは思っていません。ただ、感染リスクを最大限ゼロに近づけるためにも、これぐらいの規模の会場では、観客一人ひとりの距離をこれぐらい開ける必要があり、その結果何人までなら収容を認める、といったルールを、分かりやすく共通したエビデンスを基に示してほしいのです。

また、既にプロ野球やサッカーJリーグなどでは実施されていますが、選手や監督、審判などのスタッフの定期的なPCR検査はマストにして、陰性であることを証明するということはやってほしいと思います。その上で、お客様である観客にも、事前の行動や体調をチェックするといった何らかの策を考えるべきだと思います。しかし現状では、陸上競技のように、活動再開のためのガイドラインは策定したものの、PCR検査の義務化には至っていないアマチュアスポーツはたくさんあります。

本来なら、そうした検査費用を国やオリンピック委員会、競技委員会等の予算から出してもいいのではないかと思います。PCR検査も含め、細心の注意を払った感染防止策をしっかり立てなければ、もしもクラスターが発生したときに、試合の中止はもちろん、社会全体に悪影響を与えてしまい、その競技だけでなくスポーツ全体への心象も悪くなってしまうでしょう。国内のスポーツイベントを安心・安全に開催できてはじめて、五輪開催の話ができるのではないでしょうか。

コロナ禍にあっても東京五輪代表選手は大活躍

こうした不安ばかりが募る状況ですが、陸上界では明るい兆しも見えました。7月に北海道で開催された「ホクレン・ディスタンスチャレンジ2020」(全4戦)では、男女ともに東京五輪マラソン代表選手が快調な走りをアピールしました。

男子1万メートルでは服部勇馬選手(トヨタ自動車)が27分56秒32の自己新記録を樹立、女子1万メートルも前田穂南選手(天満屋)が自己ベストを40秒近く更新して、31分34秒94で優勝しました。別のレースでは、一山麻緒選手(ワコール)も31分23秒30の自己新記録を達成。また、マラソン代表選手以外でも、女子3000mで田中希実選手(豊田自動織機TC)が見事な走りを見せ、8分41秒35の日本記録を樹立しました。18年ぶりとなるこの快挙は、女子陸上界を大きく動かす、とてもうれしいニュースでした。

世間の混乱をものとせずに素晴らしい結果をたたき出した選手たちを見て、さすが、いくつものハードルを乗り越えて五輪の切符をつかんだ選手たちだなと頼もしく思いました。

こうした実力を発揮して私たちを元気にしてくれる選手がいる一方で、後進たちが前向きになれるような活動に取り組んでいる選手もいます。東京五輪マラソン男子代表の大迫傑選手(ナイキ)は、参加標準記録を突破した大学生以下の中長距離選手の中から選抜したメンバーとともに、合宿「Sugar Elite short Camp」を8月に開催すると自身のサイトで発表しました。

参加者のうち選定された2人のコーチングやトレーニング代、宿泊費などは、大迫選手が負担するとのこと。第一線で活躍する日本代表選手から指導を受け、一緒に練習できるということは若手にとって夢のような話ですし、試合などが制限され目標を見失いがちになり、トレーニングのモチベーションも上がりにくい今だからこそ、とても良い経験になると思います。何よりも、こういう状況であってもアイデア次第で陸上界を少しでも明るくできるのだと感じました。

(まとめ:高島三幸=ライター)

[日経Gooday2020年8月7日付記事を再構成]

有森裕子さん
元マラソンランナー(五輪メダリスト)。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

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