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コロナで注目の自転車 世界を変えたスマホ級の大発明

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ナショナルジオグラフィック日本版

歴史は繰り返す。まったく同じではなくとも、確かに繰り返す。コロナ禍で自転車の需要が急増し、サイクリングとウォーキングに新たに焦点を当てた都市の再開発に各国が数十億ドルをかけようとしている今、19世紀後半の自転車の登場がいかに世界を変えたかは、振り返る価値があるだろう。

自転車は、極めて破壊的な技術だった。少なくとも今日のスマートフォンと同じ程度には。価格も手頃で、速くてスタイリッシュな交通手段であり、好きなときに好きな所へ無料で行ける自転車は、1890年代の数年間において究極のマストアイテムだった。

ほぼ誰でも乗り方を覚えられ、そして、ほとんど誰もが乗った。アフリカ、ザンジバルの君主やロシアの皇帝はサイクリングを始め、アフガニスタン、カブールの国王はハーレムの全員に自転車を買い与えた。

しかし、真に自転車をものにしたのは、世界中の中産労働階級だ。歴史上初めて大衆が移動手段を手に入れ、好きに行き来できるようになったのだ。高価な馬や馬車はもはや必要ない。「庶民の足」として知られた自転車は、軽量、手頃な価格、維持が容易なだけでなく、最速の乗り物でもあった。

社会は一変した。女性は特に熱狂した。面倒なビクトリア調のスカートを脱ぎ捨て、ブルマーや「合理的」な服を着て、大挙して道にこぎ出した。

「自転車は、世界中の他の何よりも、女性解放に多大な影響を与えたと思います」とスーザン・B・アンソニーは1896年に米New York Sunday World紙のインタビューで答えた。「自転車に乗る女性を見るたびに立ち止まり、歓喜しています。それは、自由で制約のない女性の姿なのです」

1898年までには、サイクリングが米国で大人気のアクティビティーとなり、米『New York Journal of Commerce』誌によれば、レストランや劇場の損失は年間1億ドルを超えたという。自転車の製造は、米国で最も大きく、かつ最も革新的な産業の1つになった。全特許出願の3分の1が自転車関連で、そのあまりの多さに、米特許庁は別館を立てなければならなかった。

珍品から熱狂させる商品へ

現代の自転車を発明した人物として、一般に名が挙がるのは、英国人ジョン・ケンプ・スターリーだ。

1870年代に、ジョンの叔父のジェームズ・スターリーが「ペニー・ファージング」と呼ばれる前輪が大きくて後輪が小さい自転車を開発していた。ジョンは、ペニー・ファージングほど乗るのが怖くも危険でもなければ、自転車の需要が高まるのではないかと考えた。1885年、30歳になった彼は、英コベントリーの作業場で以前よりはるかに小さな車輪を2つもつチェーン駆動の自転車を開発し始める。

いくつかのプロトタイプを試作した後、彼は「ローバー安全型自転車」を考案した。重量は20キロで、今日我々が自転車と聞いて思い浮かべるものにおおむね似ている。

1886年、初めて自転車ショーに出展した時には、スターリーの発明品は珍品と見なされた。だが2年後、新たに発明された空気タイヤと組み合わせると、衝撃が緩和されただけでなく、速度が約30%も向上した。まるで魔法のようだった。

世界中の自転車メーカーが先を争って独自の製品をつくり、需要を満たすために何百もの会社ができた。1895年に英ロンドンで開催されたスタンリー自転車ショーでは、およそ200社の自転車メーカーが3000車種を展示した。

最大手の1つはColumbia Bicycles社で、米コネティカット州ハートフォードにある工場では、自動組立ラインのおかげで1分1台のペースで自転車を生産できた。これは後に、自動車産業の大きな特徴となる革新的な技術だった。また、Columbia社は先進的な雇用主として、従業員に駐輪場、個人ロッカー、社員食堂での食事補助、図書館を提供した。

飽くなき自転車への需要は、ボールベアリング、スポーク用ワイヤー、鋼管、精密工具の製造など、製造業にも活気をもたらした。

広告市場も潤った。アーティストは美しいポスターの制作を受注し、ポスターは鮮やかな新技術リトグラフで印刷された。製品の寿命を意図的に短くする「計画的陳腐化」や、毎年新モデルを発売するといったマーケティング戦略は、1890年代の自転車業界から始まったものだ。

村をまたぐ結婚増える

自転車があれば何でもできるように思え、普通の人が異例の旅に出た。たとえば1890年の夏、ロシア軍の若い中尉は、サンクトペテルブルクからロンドンまで1日平均110キロもペダルをこいだ。1894年9月、24歳のアニー・ロンドンデリーは、自転車で世界一周を成し遂げた初の女性となるべく、真珠の象嵌を施した拳銃と着替えを持って米シカゴを出発した。それから1年弱の後、彼女はシカゴに帰り着き、賞金1万ドルを手に入れた。

オーストラリアでは、羊の毛刈りの巡回労働者が、仕事を求めて水のない奥地を何百キロも自転車で走った。「彼らは公園で自転車に乗るかのようにこの旅に出る」と、新聞記者C.E.W.ビーンは著作『On The Wool Track(羊毛を追って)』に書いている。「彼は道を尋ね、パイプに火をつけ、自転車に乗ってこぎ出した。彼が多くの羊の毛刈り職人のように都会育ちだったなら、まるで叔母の所へお茶をしに行くかのように、黒いコートと山高帽を身につけていただろう」

そして米国西部では、1897年の夏、バッファロー・ソルジャーと呼ばれたアフリカ系米国人部隊である米陸軍第25連隊が、モンタナ州フォートミズーラからミズーリ州セントルイスまで、異例の3000キロ行軍を行い、軍における自転車の有用性を実証した。フル装備でカービン銃を持ち、荒れてぬかるむ道を自転車で1日平均80キロ近くを走破した。騎兵隊の2倍の速さで、コストは3分の1だった。

自転車は、芸術、音楽、文学、ファッション、さらには人の遺伝子に至るまで、事実上生活のあらゆる面を変えた。英イングランドの教区の記録は、1890年代の自転車の大ブレイクで、村をまたいでの結婚が著しく増えたことを示している。新たな自由を得た若者が、意のままに田舎を動き回り、道で交流し、遠くの村で出会った。そして、顔をしかめた当時のモラル活動家が指摘したように、多くの場合、年配のお目付役を出し抜いたのだ。

英国のヘンリー・ダクレが作詞作曲した『デイジー・ベル』は、1892年に欧米で大ヒットを記録し、「2人乗りの自転車」というリフレインが有名になった。熱烈な自転車愛好家で鋭い社会観察者だった作家のH.G.ウェルズは、いくつかの「サイクリング小説」を書いた。この素晴らしい新たな交通手段のロマンチックで、人々を解放し、階級を消失させる可能性にまつわる優しい物語だ。

自転車が未来を形づくる役割を見抜いた慧眼の持ち主は、ウェルズだけではなかった。1892年の米国の社会学の雑誌には、「都市の発展における自転車の影響は、まさに革命的になるだろう」とある。「自転車の経済的・社会的影響」というタイトルの記事で、より幸せで、より健康的で、より外向的な住民が暮らす、より清潔で、より環境に優しく、より穏やかな都市を著者は予見した。

若者は自転車のおかげで、「より多くの世界を見ることができ、それに触れることでさらに世界が広がる。自転車なしでは、家から歩ける距離を超えて出かけることはめったにないが、自転車があれば、多くの周辺の町をコンスタントに動き回り、郡全体に詳しくなり、休みにはいくつかの州をまたいで旅することも珍しくはなくなる。そのような経験が、活力の増進、自立、個性の獲得を促す」

数百万人の自転車愛好家と国内最大規模の産業の政治的影響力が、都市の通りや田舎道の急速な改善につながった。自転車乗りが、まだ予期せぬ自動車の時代へと続く道を文字通り切り開いたのだ。

次ページでも、第1回のツール・ド・フランス、自転車競技のスーパースター、人々に読まれた自転車でのツーリングをまとめた本など、自転車が世の中に与えた影響の数々を貴重な写真でご覧いただこう。

C

(文 ROFF SMITH、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年7月26日付の記事を再構成]

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