新型コロナ、なぜこんなに「無症状」が多いのか?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/8/24

症状が全く出ない人による感染を調査することは困難なため、そのような人にどのくらいの感染力があるのかは不明瞭だ。CDCは、無症状者の感染力は症状があるケースの75%ほどではないかと推定している。これは、症状の有無や程度によって、体外に排出されるウイルスの量や感染力にどのような違いあるかについて調べた研究に基づいている。だが同時に、この数字について注意を促してもいる。いわゆる「ウイルス排出」の仕組み自体があまり解明されていないからだ。

無症状の人はそもそもウイルスの量が少ないのかもしれない。あるいは、コウモリのような免疫系を持っているのかもしれない。「コウモリはウイルスを保有していますが、全く症状が表れません。特殊な免疫反応によってウイルスを抑え込んでいるようなのです」。米アイオワ大学教授で微生物学と免疫学が専門のスタンリー・パールマン氏はそう説明する。

こうした説は、中国で最近行われた研究の解明に役立つかもしれない。6月18日付で学術誌『ネイチャーメディシン』に掲載された論文によれば、無症状の人は全般的に免疫反応が弱く、ウイルスと闘う武器である抗体をあまり作らないことが示唆されたという。

若さの背景にあるもの

研究者たちはまた、どんな人が無症状や軽症になりやすいのかを調べている。英国の1730万件近い医療記録の分析によれば、新型コロナウイルス感染症は高齢者では死亡に至るリスクが高い一方で、若者の大半は重症化しない。

重症化するかどうかについて「関連性が圧倒的に強い要素は年齢です」と、米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院感染症科の診療部長と医学部教授を兼務するポール・サックス氏は言う。

しかしそれは、一般的に若者の方が健康であるという単純な理由からではない。新型コロナウイルスが細胞に感染する際の入り口となる「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」というタンパク質を多く持っている人は、より高リスクなのではないかとの説がある。高齢者は全身や、ウイルスにさらされやすい鼻にACE2を若者より多く持っているのだ。また、肥満の人もACE2が多い。

注目が集まっている説は他にもある。若者の方が一般的に呼吸器系のウイルスに感染することが多く、それが新型コロナウイルスに感染したときの危険度を下げているのではないかというものだ。「すでに複数種類のコロナウイルスに暴露されているため、新型コロナウイルスに対する部分的な防御態勢が出来ているわけです」とサックス氏は説明する。

7月15日付で学術誌『ネイチャー』に掲載された、査読済みだが編集前の論文では、特定の種類のコロナウイルスに感染して回復した人は、新型コロナウイルスを撃退したり軽症に抑えたりできるような「メモリーT細胞」を保有しているのではないかと主張されている。

あるいは、無症状の人は単に遺伝的に運が良いだけではないかと示唆する研究もある。特定のタイプのACE2遺伝子を持つ人は、新型コロナウイルスに感染しやすかったり、炎症を起こしやすいせいで肺にダメージを受けやすかったり、血管が収縮して症状が重くなりやすかったりする。イタリアとスペインで実施された調査の結果、特定の血液型の人は入院に至るリスクが高いとする報告も出された。しかし、それを否定する、より大規模な調査結果が、7月に入って複数発表されている。

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