2020/8/22

地球上の最古の生命の痕跡は、粘土鉱物に保存されていることが多く、火星のジェゼロ・クレーターでも同様に粘土鉱物に複雑な有機化合物が含まれている可能性がある。科学者たちは、火星の湖の化学的性質の予想が正しいなら、それはストロマトライトと呼ばれる構造物に似ているのではないかと考えている。ストロマトライトは、微生物と泥に含まれる有機物が交互に重なってできた層状構造物で、地球上で35億年前の生命の記録となっている。

パーシビアランスは、高解像度カメラと、ロボットアームに搭載された2種類の岩石分析装置「PIXL」と「SHERLOC」を使って、火星の古代の堆積物層に残る生命の痕跡を探す。岩石分析装置は、火星の岩石中の元素、鉱物、有機化合物の分布を詳細に明らかにすることができる。

「生命は塊になりたがる傾向があります」とウィリフォード氏は言う。地球上のストロマトライトは、有機物が豊富な層と乏しい層が交互に重なっているので、火星の岩石に同じようなパターンが見られれば、生命の存在を強く示唆していると言える。

しかし、生命の存在をはっきりと確認できる可能性が高いのは、将来、地球に持ち帰られる岩石サンプルの方かもしれない。パーシビアランスは約40本の容器に15グラムずつ岩石を入れて密封し、将来、別の探査車が回収できるように保存する。NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、これを回収するための共同ミッションを計画しており、26年の打ち上げと31年までの帰還を計画している。

「サンプルを地球に持ち帰ることさえできれば、たった1粒の砂から古代の環境に関する膨大な情報を読み取ることができるでしょう」とウィリフォード氏は言う。地上の実験室では、サンプルに含まれる分子の複雑さ、炭素同位体比、代謝副産物など、生命のさまざまな痕跡を調べることができる。

人は火星で生活できるのか

パーシビアランスは、生命探査だけでなく、低温で空気がほとんどない火星環境で人間が活動し、生き延びられるようにするための新技術の検証も行う。その1つが、二酸化炭素を酸素に変換する「MOXIE」と呼ばれる装置である。人間が生き延びるためには酸素は絶対に欠かせない。

スタック・モーガン氏は、「この技術をスケールアップすれば、火星の居住施設に酸素を供給したり、宇宙飛行士を地球に帰還させるためのロケット燃料や推進剤の製造に利用できるかもしれません」と言う。

もう1つは、探査車の腹の下に収まっている重量1.8キロの小型ヘリコプター「インジェニュイティー(Ingenuity)」だ。火星の薄い大気中でも飛行できるように設計されたこのヘリコプターは、地球以外の惑星における最初の動力飛行を行い、低空から火星を探査しようとしている。

ヘリコプターの2つのプロペラはカーボンファイバー製で、長さは約1.2メートルあり、1分間に2400回転する。これは地球上のどのヘリコプターよりも速い回転速度だ。インジェニュイティーは、探査車のミッションの最初の30日間に、カメラを数台携えて自律飛行テストを行う。

チームは現在、ヘリコプターの飛行計画の詳細を検討しており、最初の20秒間の飛行で機体の性能を確認する予定だ。初飛行がうまくいけば、さらに4回の飛行が予定されており、将来の火星用航空機の検証を行う。

インジェニュイティーのプロジェクト・マネージャーであるミミ・アウン氏は、飛行からデータを得ることが重要だと言う。「地球から離れた火星で航空機を操作するにはどうすればよいのか、すべてが勉強になります」

これまで人類は、火星については遠くから学ぶしかなかった。しかし、ヘリコプターや探査車、岩石サンプルが火星の秘密を解き明かしていけば、かつての火星がどれほど生命の居住に適した場所だったのか、そして将来、人類が火星に住むことは可能なのかが明らかになるだろう。

(文 NADIA DRAKE、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年8月3日付]

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