2020/8/11

「家族一緒に過ごせたこと、子供の成長を間近で見られたことは貴重だった」と中嶋さん。20年1月に帰国し、OBとして駐夫のグループに参加する。「同じ境遇の人の背中を押したい」。というのも、男性は女性の産休・育休のような長期の休業経験がない。主夫生活の後の仕事復帰への不安が大きく、二の足を踏むことも少なくないからだ。

「2度目の駐在になる妻のキャリアを応援したかった」。17年4月、中国に赴任した妻に同行した泉淳一郎さん(村田製作所)は振り返る。同じ会社で働く妻は15年前、上海に単身で3年間駐在した。今は子供がいる。ただ、このキャリアは妻の今後に生かせると主夫の役を買って出た。

そして今年1月に帰国し、仕事に復帰したところだ。泉さん自身は当初、自分の40代半ばでのキャリアの中断が不安だった。しかし、「3年間のブランクがあっても、覚えたスキルはあまり忘れていなかった」という。

パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は、男女を問わず、「数年間の空白があっても、雇用し続けることは企業にとってメリットがある」と説明する。「人材の採用と組織への適応が難しい分、離職によるコストが高くつく」からだ。

共働き世帯は6割(母数は夫婦どちらか1人または2人が就業する世帯)になった。要職や海外赴任のチャンスが巡ってくるのは男女ともに同じだ。小林研究員は「企業は海外赴任の辞令の計画的な発令と育成プランが求められる」と指摘する。マツダのように、自己研鑽を含む選択型福利厚生制度を、休職期間中も使えるようにしている企業もある。

キャリアの正念場がいつ訪れるかは、誰にもわからない。野村総合研究所の武田佳奈・上級コンサルタントは「夫婦が互いにどうキャリアを形成していきたいか、一緒に考えるのは大事なこと」という。互いのキャリアにプラスになるように支え合うのが、共働き時代の夫婦の理想だ。

企業には「休職などで違う経験をして戻った人の能力をどう最大化するか考えることが求められる」と指摘する。先行きが不透明な今、多様なキャリアを積んだ人材は企業にとって欠かせないはずだ。

テレワークなら海外でも

妻の赴任に家族で同行するという選択をするにあたり「ほとんど迷わなかった」という人が多かったことに驚いた。もともと共働きで家事を分担していて不安が少ない場合や、産休・育休を取った妻に恩返ししたいという意見が出た。会社員生活を一時中断する不安よりも、少しの間家族で海外で暮らす方が得るものが大きいとの考えから決断する人が多いとみられる。

取材をしていて聞こえてきたのは「海外でもテレワークでなら仕事がある程度できるのではないか」との声だ。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが広まった今、海外でも時短勤務などを活用して働くという選択肢が将来できるかもしれない。

(佐堀万梨映)

[日本経済新聞朝刊2020年8月10日付]