「水出し用をはじめ、家で簡単にコーヒーを楽しめる色々な器具が今は売られている。昔はこんなのなかったな」と堀内さん

2時間で抽出完了 深夜の焙煎前にも1杯

主な構造は水タンクとフィルター付きカップ、ポットの3つの部品のみ。フィルターにコーヒー粉40グラムを入れ、450ccの水を満たしたタンクを上にセットすれば、2時間ほどでポットに約440ccの水出しアイスが抽出される。コーヒー粉はあらかじめ水で湿らせるが、堀内さんは粉をボウルにあけて大さじ2~3杯の水をかけ、全体になじませてからフィルターに詰めている。

「夏の間は自宅に水出しアイスを常備していて、夫婦で何杯も飲みます。味はお好みですが、自宅では普段、深煎りの中細挽(び)きです」

堀内さんは週5日、夜中から朝方にかけて豆を焙煎する。その作業の前にも水出しアイスをゴクリとやる。自家焙煎を始めたのは開業から十数年たった2010年だ。それまでは札幌市の有名店の斎藤珈琲から焙煎豆を仕入れていた。カフェ業界でカリスマ視される堀内さんも、今の運営スタイルを固めるまでには、好奇心のおもむくままの“寄り道”もあれば、大きな心境の変化もあった。

飾らない雰囲気の店内。地元客や観光客がのんびり時間を過ごし、穏や かなさんざめきに満たされる

「子供の時から凝り性で、好きなことにのめり込む性格」の堀内さんは、学生時代にバイト先の仲間の影響でフランス文化に興味を抱いた。数えきれぬほど映画を見て、流通業に就職してからは休暇のたびにフランスを訪れた。そこで市民の日常に溶け込むカフェの存在にひかれた。当時の日本では、そうしたフレンチカフェはまだ珍しい存在だった。

「そのうち、バイト時代に面識を得た美術作家の永井宏さんらアーティストと交流するなかで、自分の好きなことを形にする仕事をしたい、という欲求が高まっていったんです。自分らしく何かを表現して生きたい、と。そんな気持ちが爆発しそうになって、会社を辞めました」

26歳の堀内さんが「自己表現」の場として選んだのがカフェだった。自分の好きなものを織り交ぜながら、マスターとして「いい時間を過ごす場所」をつくりあげること。それが堀内さんなりの自己表現になった。

例えば店構え。好きなフランス映画の監督の一人にジャック・タチがいる。店内のしつらえはタチのコメディー作品「ぼくの伯父さんの休暇」に出てくる海辺のホテルの食堂をイメージした。ただし店名は、永井さんの文章に登場するフランソワ・トリュフォーの作品「日曜日が待ち遠しい!(Vivement Dimanche!)」からとった。

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震災が転機に 「自己表現の場」カフェに集中