米政府やIT企業も導入 トヨタウェイはどこまで広がるトヨタプロダクションシステム・サポートセンター(TSSC)バイスプレジデント ジェイミー・ボニーニ氏(下)

たとえば、トヨタ生産方式の背景にある大原則の一つは、スタンダードをつくり、そのスタンダードに従ってオペレーションを行い、異常が発生したら「どこにスタンダードとのギャップが生じているのか」を調査することです。

日本にはスタンダードやルールを重視する文化があると思います。それが日本の文化の強みでもあります。日本で電車にのると、いかに日本人が自分の周りの環境に気を配り、ルールに従うことを重んじているかを実感します。一方、アメリカは開拓者の国ですから、より個人の意思を尊重します。皆でスタンダードに従うことにはなれていません。トヨタ生産方式を社外に教える際には、まずはその違いをわかりやすく伝えることが必要なのです。

トヨタはオペレーションマネジメントの基本

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。最新刊は『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』。

佐藤 ハーバードビジネススクールでトヨタの教材「Toyota Motor Manufacturing, U.S.A., Inc.(米国トヨタ自動車)」は最も長く使用されている教材の一つだそうです。なぜこれほど長く愛用されてきたのでしょうか。

ボニーニ 1992年の出版以来、「Toyota Motor Manufacturing, U.S.A., Inc.」はトヨタ生産方式の基本理念を学生たちに伝える強力なツールとして活用されてきました。私自身、90年代半ばからハーバードビジネススクールやMITスローンスクール・オブ・マネジメントなどの授業にゲストスピーカーやファシリテーターとして参加してきましたが、トヨタ生産方式を教えるのにこれほど優れた教材はないと実感しています。

ご存じのとおり、長く愛用される優れた教材は簡単に生まれるものではありません。こうした中、この教材がベストセラーになっている主な理由は2つあると思います。1つはこの事例がトヨタ生産方式の本質をわかりやすく伝えていること、もう1つは、トヨタがハーバードやMITなどアメリカのトップビジネススクールで、オペレーションマネジメントの基本として考えられてきたことです。

佐藤 ハーバードビジネススクールの教授陣は授業で、「アンドン、かんばん、音楽などを取り入れて、トヨタ生産方式を表面だけまねしてもトヨタにはなれないですよ」と教えていると聞きました。物理的なツールを取り入れても、トヨタ生産方式を実現できないのはなぜですか。

ボニーニ 2018年にハーバードビジネススクールに招待されたときも学生から同じ質問を受けました。ハーバードではMBAプログラムの必修授業だけではなくランチセッションにも参加し、およそ300人の学生と意見交換しました。私が所属しているTSSCの活動を紹介するビデオを見せたあと、質疑応答の時間となると、ある学生がこう質問しました。「なぜトヨタ生産方式はコピーできないのですか」。そこで私は次のように答えました。

技術的ツールのほかに2つの要素

「トヨタ生産方式の基本にあるのは組織文化です。この組織文化は『フィロソフィー』『技術的ツール』『管理的な役割』という3つの要素で成り立っています。アンドン、かんばん、標準作業票などは『技術的ツール』にあたりますが、これは3つの要素のうちの1つでしかありません。『フィロソフィー』と『管理的な役割』がなければトヨタ生産方式は機能しないのです」

佐藤 ハーバードビジネススクールの教員には、次にどんな教材を書いてほしいですか。

ボニーニ 現在使用されている教材はとても優れた教材だと思いますが、できればトヨタの社外でトヨタ生産方式がいかに活用されているかをテーマとした教材を書いてもらいたいですね。すでにハーバードの何人かの教授には相談しはじめています。たとえば火曜日に現在の教材を教えて、木曜日に新しい教材を教える、というのは理想的ですね。ハーバードがこれからも必修授業でトヨタの事例を取りあげ、未来のリーダーによりよい影響を及ぼしていくことを願っています。

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