新型コロナ、今や変異型が主流に 気になる感染力は?

日経ナショナル ジオグラフィック社

米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのウイルス学者タイラー・スター氏は、理論的にはウイルスの変異が「大当たり」し、格段に致命的で拡散しやすくなる可能性があるものの、その確率は非常に低いと言う。

米スクリプス研究所の免疫学者クリスチャン・アンダーセン氏は、「ウイルスが変異を繰り返し、そのほとんどが何もしない可能性のほうがはるかに高いのです。あるものはウイルスの適応度をわずかに下げ、またあるものはわずかに有利にするでしょう。それだけです」と言う。

ウイルス変異、心配するべき?

人々はあらゆるパンデミックで変異を心配してきたと、今回インタビューを受けてくれた専門家たちは口を揃える。十分に解明されていない疾患に対する恐怖のせいかもしれないし、単に危険な変異は良い話題になるからかもしれない。

「新型コロナウイルスについてはわからないことが多く、完全なストーリーを語ることはできません。私たち人間は完全なストーリーを求めずにはいられないため、むりやりギャップを埋めようとするのです」と、スタンフォード・ヘルス・コミュニケーション・イニシアチブの研究教育担当理事であるシーマ・ヤスミン氏は語る。「多くの場合、私たちは刺激的な情報でギャップを埋めてしまいます」

米ミシガン大学の医師で医学史家のハワード・マーケル氏は、「ウイルスが変異によって凶悪化するという筋書きはテレビのSF番組のようで、人々の関心を集めるのにうってつけです」と言う。「例えばインフルエンザについて一般向けに解説する雑誌の記事などを読むと、1918年のインフルエンザは変異によって強くなったという説明を目にすることがあります。けれどもそれを示唆する証拠はまったくありません」

コロナウイルスのふるまいをがらりと変えるような変異は考えにくい。インフルエンザウイルスもコロナウイルスもRNAウイルスだ。エイズウイルスや麻疹ウイルスもRNAウイルスだが、出現から今日まで、感染様式は基本的に変化していないと、ラカニエロ氏は指摘する。「現時点では、基本的な感染様式を変えたウイルスは知られていません」

ところで、新型コロナウイルスについては、わずかな変異によって免疫システムに認識されなくなることが考えられる。もしそうなれば、人々は再感染する可能性があり、ワクチンが開発されても時間の経過とともに役に立たなくなるおそれがある。季節性インフルエンザでは、まさにそれが起きている。インフルエンザウイルスは毎年少しずつ変化しているため、それに応じてワクチンを調整しなければならない。

新型コロナウイルスは、2019年末に武漢に出現したときにはすでにかなりの感染力を持っていた。呼吸器からの飛沫により感染し、ときに無症状の人からも感染することがあるという感染様式で、壊滅的なパンデミックを引き起こすのに十分だった。

専門家は、現在のパンデミックが今後どうなっていくかは、ウイルス自体の特性よりも、ウイルスの拡散を防ぐための私たちの行動にかかっていると強調する。

米テキサス大学オースチン校の構造生物学者クラウツ・ウィルケ氏は、D614G変異を特段に心配する人々には、次の視点が欠けていると指摘する。「どうすれば感染の拡大を食い止められるのか、ワクチンは有効なのかという2つの主要な問題に、ウイルスの変異は影響しません」(ウィルケ氏)。

(文 MONIQUE BROUILLETTE、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年7月18日付の記事を再構成]

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