新型コロナ、今や変異型が主流に 気になる感染力は?

日経ナショナル ジオグラフィック社

研究チームはこの疑似ウイルスを、実験用の腎細胞各種と混ぜ合わせた。これらの細胞は、生きている人体内の細胞と異なり、自然または人為的な改変が加えられている。さらに、スパイクタンパク質をもつウイルスに感染しやすいように遺伝子を改変されてもいる。

このような人為的な環境における実験の結果、変異したスパイクをもつウイルスの方が感染力は強かった。この発見が、D614G変異がものの数カ月で優勢になったという事実と合わさることで、ウイルスが変異によって感染力を増したように見えた。メディアはこぞって報道した。

本当にそうだろうか? この実験の結果は何を意味するのだろうか?

「私たちには見当もつきません」とラカニエロ氏は言う。疑似ウイルスの実験はウイルス学の分野ではしばしば行われているが、たとえるなら「コアラの口にトラの歯を入れるようなもの」だという。変異したコアラにかまれたら、ふつうのコアラにかまれるより痛いかもしれないが、この実験ではコアラやトラが実験室の外でどのくらい獰猛なのかはわからない。

コーバー氏も実験結果の限界を認めている。この結果がヒトでの感染力について何を意味するかは「わかりません」と彼女は言う。「けれども今、いくつかの研究室で研究が進められています」

創始者効果とは?

変異ウイルスが多数派になった理由については、D614G変異とはほとんど関係のない別の説明ができる。

ウイルスは複製の際に変異することができる。変異の多くは何の恩恵ももたらさないが、そのまま受け継がれ、やがて集団中で一般的になる。この現象は「創始者効果」と呼ばれている。

G614型は20年1月に中国で初めて確認された。ちょうど新型コロナウイルスがヨーロッパに飛び火した時期である。ということは、ヨーロッパで初期にG614型が侵入し、広がった結果、世界的に優勢になっただけなのかもしれない。

たとえば英ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ遺伝学研究所は、最近の研究で、世界各地の2万3000人の患者から採取したウイルスゲノムを調べた。その結果、創始者効果を考慮すると、D614G変異をはじめとするどの変異についても感染力が高まったことを示す証拠は見つからなかった。

コーバー氏は創始者効果の可能性を認めつつも、世界中でG614型が優勢になっていることは、この変異が何らか有利であり、従来の型を競争により排除していることの証拠だと考えている。「両方の型のウイルスが1つの地域で共存している場合には、必ずと言ってよいほど、G614型ウイルスの方が多いのです」と彼女は言う。

しかし、ロンドン大学インペリアルカレッジの疫学者エリック・ボルツ氏は、D614G変異について「人から人への感染率を高める可能性がありますが、その差は実験室の細胞で測定された感染率の差よりもはるかに小さいものです」と言う。氏が参加する「COVID-19ゲノミクスUKコンソーシアム」という別の研究チームは、英国の患者の間でD614G変異を追跡しており、これまでに3万以上のウイルスゲノムを分析してきた。

コンソーシアムによると、D614G変異によって患者が重症化しやすくなったり致死率が上がったりしている証拠は見つからなかったという。この点は、コーバー氏のグループや米ワシントン州のグループの報告と同じである。

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