人間の幸せ、AIは理解できるか SFが問う未来小説家 瀬名秀明さん(下)

――人間とAIの大きな違いは何でしょうか。

「1997年に初めてコンピューターに負けたチェスの世界チャンピオンのガルリ・カスパロフは当時、『人間とは違う知性を感じた』と言ったのですが、著作を読むと、AIが心理戦に全く乗ってこないことに衝撃を受けて発した言葉だと分かります。例えば漫画『カイジ』シリーズはギャンブルの壮絶な心理戦が描かれますが、AIが相手だったらこうはならないですね。人は『人間』なんですが、AIは生死や心理戦とは無関係な『知性』です」

最後のモチーフは「ファウスト」

――人間とAIは共存できるのでしょうか。

「人間にとっての『幸せ』の概念が、AIにも生まれるかどうかで、その結論は変わると考えています。人間はクラゲの幸せを理解できるでしょうか。イヌやネコなら分かるかもしれませんが、種を超えた共通の幸せはあるのでしょうか。これは結構深い問題で、AIも幸せを理解できるのであれば共存できるのではないか。AIに自我が芽生えて他者を意識するようになるのか、身体性は生じるのか、自己の定義が出てくるのか、さまざま議論されていますが、私は彼らなりの自己の定義がいつか出てきそうな気がしています」

「物理学者のバナールは1929年の著書『宇宙・肉体・悪魔』の中で、人間は肉体的、社会的、心理的に制約を受けているが、いずれ解放されて高度な思念体になって宇宙に飛び出していくとしています。90年前にこんなことを考えていた人がいたんですね。アニメ『機動戦士ガンダム』の『ニュータイプ』や、『新世紀エヴァンゲリオン』の『人類補完計画』のルーツもここにあると思います。『太陽系最後の日』『幼年期の終わり』『都市と星』『楽園の泉』といったSF小説の傑作を残した英国の作家、アーサー・C・クラークもバナールの影響を強く受けています」

――今後はどんな小説を。

「若い読者が作品を通して最先端のサイエンスにふれ、こういう研究がしたいと思ってくれる、いわば人生を変えるような小説ですね。最後はゲーテの『ファウスト』をモチーフに書きたいと決めています。手塚治虫先生の絶筆『ネオ・ファウスト』のように、いろんなサイエンスのテーマをまとめる形で、しかも、さらに発展したものを書けたらいいなと思っています」

(聞き手はライター 鴻知佳子)

瀬名秀明
1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院で博士号(薬学)取得。在学中の95年に「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞を受け、作家デビュー。98年に「BRAIN VALLEY」で日本SF大賞を受賞。「パンデミックとたたかう」(共著、岩波新書)、「ロボットとの付き合い方、おしえます。」(河出書房新社)などノンフィクションも手がける。近著に2020年2月刊行の短編集「ポロック生命体」(新潮社)がある。

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