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研究室のリアルをSFに 細胞みて「いい顔」「凶暴」

小説家 瀬名秀明さん(上)

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NIKKEI STYLE

 地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)、エネルギー問題、再生医療、民間宇宙開発、そして人工知能(AI)……。人類の未来を左右する大きなテーマは、どれも科学の知見が欠かせないものばかりだ。そんな時代を生き、よりよい社会を築くにはどうしたらいいのか。科学の学びを生かし、それぞれの目標をめざす「サイエンスアスリート」から、そのヒントを学ぶ。

今回のサイエンスアスリートは作家、瀬名秀明(せな・ひであき)さん。「パラサイト・イヴ」や「BRAIN VALLEY」などのSF小説で知られ、新型コロナウイルスについても積極的に情報発信している。インタビュー前編では、コロナ禍やこれまでの科学との関わり方などについて聞く。(後編は「人間の幸せ、AIは理解できるか SFが問う未来」

想像力と当事者意識は体験から

――コロナ禍をどう受け止めていますか。

「こんな事態になるとは専門家も含めて誰も予想していなかったのではないでしょうか。世界各地でロックダウン(都市封鎖)が実施されて、経済活動も冷え込んでいます。いろいろなシナリオはあったと思いますが、やはり1回体験しないと人間は想像ができないものだということも突きつけられました」

「医療現場が逼迫し、保健所がPCR検査に追われている現実を知ると、そのことによって多くの人が自分の関わり方を想像できるようになる。誰でも簡単に使える安価な人工呼吸器や、トラウマを受けた看護師の心を支えるシステムなど、色々なアイデアが出てきた。ひとつの課題の対策に、多くの選択肢が見えるようになってきたのではないでしょうか」

――現実によって刺激された想像力が、現実への対応力も高めるということですか。

「テレビのニュース番組などを見て、自分なら何ができるか考えることから新しい科学が生まれます。大切なのは想像力と当事者意識。私もロボットについて書いたときには、マジックの番組を見てロボットにマジックができるかを考えたり、料理のときにロボットならこの具材を入れるだろうかと想像したりしました」

――科学は幼い頃から好きでしたか。

「両親が科学への興味をかき立てるような子育てをしてくれたと思います。父は大学の薬学部でインフルエンザウイルスの研究をしていて、土日には私も研究室に連れて行ってくれました。ピペットなどのガラス器具や、中で水がグルグル回っている還流装置、飼育室で餌を食べているマウスやラットなど、面白くてずっと見ていました。たまに近くの川で一緒にザリガニ採りもしてくれました」

「専業主婦で本好きの母は、よく科学の絵本を買ってくれました。『おさるのジョージ』で知られるH・A・レイのロングセラー『星座を見つけよう』を見ながら、アパートの屋上で北斗七星を探したこともあります。あとはオモチャ屋さんで電子工作の子供用キットを買ってもらったり、近くの東海大学海洋科学博物館に魚型ロボットを見に連れて行ってくれたり。ロボットが好きになる布石になったかもしれません」

「中学生の時は朝日新聞の『生命』という連載コラムを夢中になって読んでいました。細胞生物学や遺伝子工学の基礎を解説する記事で、とくに実験室で細胞を扱う細胞生物学が面白そうだと考えるきっかけになったと思います」

――憧れの科学者はいましたか。

「星一(ほし・はじめ)の破天荒な生きざまを知って、薬学者の人生も面白いと思いました。大学の薬学部に入った後、息子の星新一さんの著書『人民は弱し 官吏は強し』を読んだんです。一は製薬会社を創業しながら、ドロドロの政治闘争に巻き込まれていく人物ですが、明治のハイカラなアイデアマンでもあって、米国で野口英世に会い、2人でエジソンを訪ねてサインをもらってくるようなエピソードがあります」

「生化学者のエルヴィン・シャルガフにも触発されました。大学院の試験に失敗し、漢方の研究助手として1年間働いていたときに人に薦められた本が彼の『ヘラクレイトスの火』です。シャルガフはDNAの4種類の塩基のうち、AとT、そしてGとCが同じ数だけあることを発見した研究者で、後にワトソンとクリックの2人によるDNAの二重らせん構造の解明につながるのですが、シャルガフは若い彼らを見下していたんですね。そんな2人がノーベル賞を受賞し、自分は取れなかった。晩年に引き籠もって思想書として書いたのがこの本で、私も偏屈な科学者になりたくなりました。結局は科学者ではなく小説家になったわけですが」

――デビュー作「パラサイト・イヴ」の主人公も薬学部の研究者です。ご自身の経験を生かそうと考えたのですか。

「執筆当時は院生で、私も日々、細胞と向き合っていました。手を動かし、顕微鏡をのぞきながら、細胞の『顔がいい』とか『凶暴そうだ』とか面白がって。実験指南書の中には、ウサギに免疫注射をした後にはナデナデしなさいと書いたものもあるんですね。こういう研究の現場のリアリティーは、それまで小説で書かれることはありませんでした。もし自分の生活をそのまま書けたら新しい小説になると気づきました」

――科学の面白さはどんなところにあると感じますか。

「研究の現場の熱気ですね。それに気づいたのは、大学の薬学部に入ってからです。現場の細かなリアリティーに魅了されて、ほぼ毎日、実験室に入り浸り。自分の手で実験を進めるのが楽しくて、夢中になっているうちに、深夜のラジオ番組『ジェット・ストリーム』の放送も終わっていました」

「研究の現場から離れた今は、他の分野の先生と会う機会が増えました。ロボットや宇宙物理学、そしてバーチャルリアリティーまで、知らなかった世界に触れてサイエンスとの関わり方も変わりました。そんな中でわかってきたのは、どの分野も『人間って何?』『生命って?』『宇宙って?』という大きなテーマに行き着くということです。年齢を重ねると、研究者もこうした大きなテーマについて考えるようになって、挑戦したくなるんですね」

ロボ開発に心理学や動物行動学

――科学者たちとはどんな話をするんですか。

「例えば生物の動きを取り入れたヒト型ロボットやヘビ型ロボットの研究者と話すと、私とは違う生物観が見えて、とても面白いです。『赤ちゃんロボット』を開発している研究者は、人間の心の発達という異分野にも入ってきて、心理学や動物行動学の知見を取り入れるわけです。そういう研究はものすごく『センスがいい』と感じ、驚きと尊敬の念を抱きます」

「自分の専門分野のコミュニティーにいるだけでは気づけないことも、異分野と交流し、学際的な研究をすることで見えてくる。それも科学研究の醍醐味ではないかと思います。私も、1つの分野を深堀りした『パラサイト・イヴ』とは違って、最近はこうした交流を意識した小説を書きたいと思うようになりました。研究者が読んで、なるほどそういう手があったかと思ってもらえる作品をめざしています」

「小説を読んだのがきっかけで科学をめざす道もあれば、研究者の本を読んでSF作家になる人もいます。科学に興味を持ったけれど、人文学に進むということもあるでしょう。こうした交換があってこそ学際的な研究は可能になります。パンデミックのようにあらゆるものを総動員して立ち向かわなければならない現実もあります。異分野の人たちが謙虚に話し合う、そんな社会になってほしいと思っています」

(聞き手はライター 鴻知佳子)

瀬名秀明
1968年、静岡県生まれ。東北大学大学院で博士号(薬学)取得。在学中の95年に「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞を受け、作家デビュー。98年に「BRAIN VALLEY」で日本SF大賞を受賞。「パンデミックとたたかう」(共著、岩波新書)、「ロボットとの付き合い方、おしえます。」(河出書房新社)などノンフィクションも手がける。近著に2020年2月刊行の短編集「ポロック生命体」(新潮社)がある。

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