検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

高級コーヒー「ゲイシャ」 茨城の父子鷹が極める味

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

紙コップに満たされたコーヒーの銘柄は「パナマ・ゲイシャ・エスメラルダ・マリオ」――パナマにあるエスメラルダ農園のマリオ地区で収穫したゲイシャ種の豆。精製方法はスッキリした味わいに仕上がるウオッシュド(収穫後に実の果肉などを除去し、豆を水洗いした後に乾燥させる処理法)。店で飲めば1杯3000円以上はする高級コーヒーだ。

サザコーヒー(茨城県ひたちなか市)は世界が注目する「パナマ・ゲイシャ」の取り扱いで国内外に名を知られる喫茶店。その本店の一角で、薦められるままに一口飲んでみる。おや?

ゲイシャ種は豊かに立ち上がるかんきつ系やジャスミンの香り、そして爽やかな酸味と甘い味わいが特長だ。エスメラルダ・マリオはそのなかでも品質の高い銘柄で、ゲイシャ本来の持ち味が際立つはず。だが今飲んだコーヒー、黒糖のような風味がトロリと口中に広がりおいしいが、酸味は思ったほど強くない。口に含んだ瞬間の華やかな芳香の開花もやや控えめだ。

「これ、もう少し寝かせると、香りがパーッと立ち上がるようになると思うんだけどね」

そう語るのは、この6月にサザコーヒーの副社長から社長に昇格した鈴木太郎さん。なるほど。ところで、この豆の焙煎(ばいせん)度は? 「フルシティをちょっと越えたぐらいかな」。へえ、フルシティ?

焙煎は、浅めであれば酸味が、深くするほど苦みが優勢になる。ゲイシャはその風味を引き立たせるため、浅めに焙煎するのが定石だ。だがこの豆は、8段階の焙煎度でいうと3番目に深いフルシティローストなのだとか。

「僕は毎年、産地巡りであまり日本にいないけど、今年はコロナで足止めされたのをいい機会に、ずっと豆を焼いていました。そこで再認識したのが深煎りのおいしさ。やっぱり深煎りで、香りがしっかり残るコーヒーを提供したいなと」

「ゲイシャだってそう。焙煎は浅め、という固定観念に縛られたくない。深煎りで香りが飛んじゃうのはショボい豆。いいゲイシャは深煎りでも香りが立つ。その素晴らしさを引き出したい。日本でゲイシャを進化させるんです」

香り高きパナマ・ゲイシャ 定石外れの深煎りに没頭

1990年代以降、豆独特の風味を重視するスペシャルティコーヒーの普及に伴い、深煎りが主流だった市場で浅煎りや中煎りの存在感が高まった。ゲイシャは今世紀、こうしたトレンドの極め付きとして表舞台に登場した。日本でもここ数年の間に、その名が市場に浸透した。

ゲイシャはコーヒーの原種「アラビカ種」の在来種の一つ。原産地とされるエチオピアのゲシャ村からその名がついた。1930年代に発見され、パナマには60年代に持ち込まれた。一躍脚光を浴びたのが、2004年開催のパナマの国際品評会「ベスト・オブ・パナマ(BOP)」にエスメラルダ農園が出品した豆だ。レモンのような酸味と華やかな香りを世界のバイヤーが絶賛。その衝撃度は「革命」になぞらえられた。

BOP上位入賞豆のオークションの落札価格も急上昇。最高価格は当初1ポンド(454グラム)あたり2~4ドル台だったが、"パナマ・ゲイシャ元年"の04年は21ドルに。07年には130ドルに跳ね上がり、09年はエリダ農園の豆が破格の1029ドルをつけた。実はパナマ・ゲイシャ高騰の張本人は太郎さんだ。「パナマの人からも『値段をつり上げたのはお前だっ』て言われちゃって」

太郎さんは06年に初めてゲイシャを飲んでとりこになり、09年からBOPのオークションに参加。評価1位の豆を中心にほぼ毎年のように最高価格で購入してきた。「パナマ・ゲイシャを日本で最も多く買っているのは、ほぼ間違いなくウチ」。語り出したら、もう止まらない。

そんな高級豆から、定石外れともいえる焙煎で新たな味わいを引き出そうというのだ。周囲の不安をよそに、試行錯誤に没頭する太郎さん。その姿を、父親の鈴木誉志男さんが傍らから悠然と眺めている。サザの創業者で現会長。「スペシャルティは太郎に任せている。ブレーキをかけたことは一度もない」

誉志男さんは69年、現本社近くに「珈琲店且座(さざ)」を開業した。店名の由来は茶道の言葉「且座喫茶(さあ、座ってお茶を飲んでください)」。ゼロからのスタートで焙煎や抽出を独学し、80年代に生産地へ足を運び、97年にはコロンビアでコーヒー農園まで買ってしまった。18年7月に東京駅前の商業施設KITTE丸の内に出店。茨城県内と首都圏に14店を展開する有力チェーンに育て上げた。

「当初、ウチのような小さな喫茶店が生き残るには差別化が必要だった。だから、売る理由をお客に説明できる、ストーリーのある豆しか売らなかった」(誉志男さん)

例えば「徳川将軍珈琲」。水戸徳川家出身である慶喜公の時代のコーヒーをマンデリンの豆で再現、と銘打つ。当初、焙煎を担当したのは慶喜公直系の子孫だ。こうした「物語」を添えた商品がサザの店に並ぶ。「来年はNHK大河ドラマの主人公、渋沢栄一で仕掛けますよ」と誉志男さんは不敵に笑う。

父が興した店と農園 コロナ後の進化へ子が挑む

アイデアマンで突破者。そのDNAを太郎さんが受け継ぐ。今、熱を入れているのが、11年に買い足して25ヘクタールに広がったコロンビアの農園の運営だ。病気で2回全滅、全ての木の植え替え1回という波乱を経て、08年に栽培を始めたゲイシャの木が8万本植わっている。

「その中からおいしい豆ができる木を選抜して掛け合わせています。農園を持つと1から10まで自分でコントロールして豆をつくれる。1位の豆を落札してきたのも、豆を買えば、その農園から栽培のコツを教えてもらえるから。エスメラルダともエリダとも栽培を通して連帯感ができた。最近、深煎りでも香りの立つゲイシャを育てるヒントがわかったんです」

希少種だったゲイシャも、今では中南米のほかアフリカやアジア、アメリカでも栽培されている。ネットを使ったイベントやプロモーションに熱心な太郎さんは、各国産ゲイシャの日本での知名度向上にも一役買っている。5月には消費者と海外の生産者をオンラインで結び、様々なゲイシャを飲み比べたりバーチャルで乾杯したりする「世界ゲイシャまつり」を開いた。

サザではえりすぐりの希少なゲイシャを1杯1万円以上で提供することもある。だが、これら高級コーヒーはコロナ禍の影響を免れない。近年の価格高騰はバブルとの指摘もある。太郎さんも最近、風向きの変化を感じている。

「確かにバブルな面もある。生産量も増えてきたし、価格は一部適正化していくでしょう。だけどパナマ・ゲイシャの研ぎ澄まされた豆は別物。例えば『エスメラルダ・マリオ』の銘柄は昔のブルーマウンテン。希少性もあるし値段は1杯3000円よりは下げない。コロナ後も価値を認めて3000円払ってくれるお客は残る」

コロナの影響で今年のBOPは7月下旬、豆を審査員に事前送付するリモート方式で開かれ、9月にオークションを実施する予定。太郎さんは入札戦略を少し軌道修正するようだ。

「まずマリオは買う。1位の豆は、味が良ければ買うかな。もうショボい豆は買わない」

熱く語りながら、冷静にコロナ後の調達戦略の再構築も考えている。ただし、ゲイシャの普及と新たな味の追求に向けた投資の手は緩めない。そんな強気な姿勢の裏にはワケがある。いまだにサザの屋台骨は、誉志男さんが丹精込めたオリジナルブレンドやグアテマラ、コロンビアなどの、固定客がついた商品なのだ。「ゲイシャの売り上げは1割もいかない」(太郎さん)

「だから、ゲイシャでチャレンジして多少の赤字が出ても怖くない。景気が悪くなっても耐え抜ける。その後にウチは大反撃するから」

誉志男さんはそう言ってまた余裕の笑みを浮かべる。コーヒーの父子鷹(だか)は、したたかに計算しながら、新たな味わいの模索を続けていく。

(名出晃)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_