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岡田健史 役の景色が見えるようになったときは快感

岡田健史インタビュー(下)

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

ドラマ『中学聖日記』で2018年に鮮烈デビューを果たした岡田健史は、現在21歳。今年は3本の連ドラと5本の映画が公開予定だ。デビューから約1年半で「余裕」が生まれ、前回のインタビュー「岡田健史 初めてに挑戦する僕の強みは『知らない』」で触れたように、提案型の俳優にまで成長できた。その転機について聞くと、「19年の夏に撮影した『奥様』が大きかった」と明かす。『奥様』とは、綾瀬はるからと共演した劇場版『奥様は、取り扱い注意』(近日公開)のこと。演じた岩尾珠里はコスプレが趣味のダイニングバー経営者という設定だが、詳細は明かされていない。

「珠里の役作りで、あるトレーニングをしまして。簡単に言うと、対象のないところにモノを感じさせるという訓練。例えば、何もない空間に珠里の部屋を想像するんです。どんなカウンターがあって、椅子はどういう高さで、質感はどうなのか。ペットボトルには水がどれくらい入っていて、キャップはどんな固さで締まっているのか。それを何もないところから想像するから、なかなかできなくて。だけど何日も続けているうちに、だんだん部屋の景色が見えてきて、鮮明になったときは快感でした。『できない』という経験は屈辱でしたが、悩みながらも逃げずに取り組んだことで、僕は珠里を楽しく生きられましたし、役の表現も広がったと思います。

トレーニングの発案者は、僕が『中学聖日記』のオーディションを受けるときからレッスンをしてくださっている演技のコーチで、僕は『師匠』と呼んでいて。僕はもともと見栄っ張りで、カッコ悪いところを人に見せるなんてできない人間だったんですけど、師匠と出会ってたくさんの気付きがあり、変わることができました。今では『カッコ悪いところを見せられるって、なんてカッコイイんだろう』と思えるようになりましたから。(日経エンタテインメント!2020年7月号の表紙の大泉洋を見て)大泉さん、カッコイイですよね。大好きです、僕、大泉さん」

今年後半の岡田は出演映画の公開ラッシュが続く。『奥様は、取り扱い注意』のほか、10月には『SPEC』シリーズ(10年~)の堤幸彦監督が雫井脩介のサスペンス小説を映画化する『望み』が公開。堤真一、石田ゆり子、清原果耶と家族役で共演し、殺人事件の鍵を握る高校生・石川規士を演じる。

11月には、『神様のカルテ』シリーズ(11年、14年)を手掛けた深川栄洋監督が中山七里の小説を映画化する『ドクター・デスの遺産-BLACKFILE-』が公開。岡田は綾野剛や北川景子と共演し、実直かつ真面目な若手刑事・沢田圭にふんしている。

12月には、『今日から俺は!!』の福田雄一監督による歴史コメディ『新解釈・三國志』が公開に。共演は大泉洋やムロツヨシ、山田孝之らで、呉の初代皇帝・孫権役に挑む。

「特に強烈だったのは、福田組です。本番で僕が賀来賢人さん演じる周瑜のことを、間違って『しょうゆ』と言っちゃったんですけど、『OK!』と言われて、『え、いいの?』って(笑)。すごく楽しかったです、福田組。堤組では、僕はほぼ演出を受けませんでした。僕が提示する表現を見事に調整してくださって。規士を生きた時間はめちゃくちゃ濃かったです。質感の重い役を演じるのも僕は好きなんだっていう発見もあって、新鮮でした。深川監督の『ドクター・デス』では、ある種コミカルな、暑苦しい沢田圭という刑事役。この現場でも剛さんと一緒だったんですが、今の『MIU404』とは全く違う関係性を築けました」

これらの映画を多数のドラマと並行して撮影していたとすると、かなりの過密スケジュールだったはず。それにもかかわらず、作品のことを聞くと、役名がよどみなくすっと出てくる。

「掛け持ちですか? ありました、ありました。もちろん混乱しましたし、むしろ『混乱しないほうがおかしくない?』っていうぐらいの時期もあったんですけど(笑)。でも、一馬は何が好きかとか、沢田圭はどんな価値観を持っているのかとか、役柄それぞれの性格や人物像をきちんと理解するように努めていたので、乗り越えられました。ずいぶん前に撮影した作品でも、役柄の印象は深く残っていますね。

もちろん、1つの役にすべてを注ぎ込めることほど幸せなことはないです。でも、そうも言っていられない。むしろ、それだけの数の役をいただけるのは幸せなことなので、やりがいがあって楽しいです」

世の中に影響を与えられる俳優に

今、岡田が作り手から引く手あまたなのはなぜか。その状況について尋ねると……。

「求められてるというより、『君ならどうする?』と言われている感じがしますね。お芝居の神様みたいな存在に。その試練を乗り越えることで新しい僕が見つかって、そんな僕をまた他の誰かに見つけてもらってっていう、その繰り返しなんじゃないかと思います。

今日、この場でインタビューしてくださっていることも、『君はどう答える?』と試されている気がしてならないですし。試されることは、もちろんプレッシャーです。プレッシャーだけど、それをはねのけて、いかに楽しくやっていくかっていうことが『生きる』ってことかなと思います」

はねのけるための武器は何かと聞くと、「逃げないこと。どんなことも流さず、ちゃんと受け止める。それで時にボロボロになる」と笑う。ボロボロになり、涙を流すようなこともあるのだろうか。

「ありますね。これからも、期待して与えてもらった役に対して、どれだけ考えて、どれだけ苦しんで、どういう色に変化させて形にしていくかという作業を繰り返して、場数を踏みたい。

目指しているのは、世の中に影響を与えられるような俳優です。今、コロナ禍のこの時代に、エンタテインメントに助けられている部分って、いっぱいあると思うんです。俳優である以上、みなさんに希望や共感を届けて、支えになりたい。そのためには、ただ役になって、カメラの前に立つだけでいいのか…。そんなことも時々考えますが、人の心を動かせるような役者になれたらいいなと思っています。

今後は、『大江戸もののけ物語』が一風変わった時代劇だったので、正統派の時代劇にも挑戦してみたいです。京都の撮影所にはいろんな時代劇のポスターが貼られていて、どれもめちゃくちゃカッコいいんですよ。そこに貼られるような作品を増やせたらうれしいので、作り手の方に『岡田健史で正統派の時代劇を』と思ってもらえたら、1つの成功かなと思います。今回の一馬役をたくさんの方に見ていただきたいです」

(ライター 泊貴洋)

[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]

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