低学年にも読み聞かせ 子どもの知的好奇心を広げる
新2年生の男の子の母で、読み聞かせをライフワークにしているフリーアナウンサーの白崎あゆみさん。今回のテーマは、「小学校低学年の読み聞かせ」です。「小学生に上がったし、字も読めるようになったから、もう読み聞かせをしなくてもいい?」と思う人もいるかもしれませんが、知的好奇心が広がる時期だからこそ、読み聞かせが有効と白崎さんは指摘します。
読み聞かせ、卒業のタイミングは子どもが決める
読み聞かせに関して、小学校低学年の子どもがいる親からよく聞かれるのは、「小学生になったのだから、もう親が本を読んであげなくてもいいですよね?」という質問です。
その背景には、どうやらいろんな葛藤があるようです。
「親が代わりに読むと、子どもの読む力を伸ばしてあげられないのでは?」と、子どもの成長のためにあえて控えている人。「小学生になったのだから、字が多い本を読んでほしいけど、そういう本を読み聞かせするのは親が大変」と選書でつまずいている人。「宿題のフォローだけで忙しくて、とても時間がありません」と余裕がなくなっている人……。
かくいう私も、現在小学2年の子の母。昨年、息子が小学校に入学したときは、生活が一変して、あたふたしていたので、皆さんの葛藤はとてもよく理解できます。
確かに、小学生になると、音読や読書カードの記入など、自分で本を読む宿題が出始めます。また、宿題を見てあげる時間だけではなく、日々持ち帰るプリントの確認、毎日の持ち物チェックなど、未就学児よりも手がかかる!と嘆きたくなるときもあるでしょう。
今までは親が代わりにやればよかったけれど、小学生になると自分でやるように促すのが親の役目。いわゆる伴走者にならないといけない苦労があります。慣れない生活で、親も子どももてんてこ舞いになり、その結果、読み聞かせをやめてしまう人は少なくないようなのです。
ただ、読み聞かせは子どもの成長や個性を発見するいいきっかけになり、自己肯定感を高める手段にもなる、とても有意義な機会。また、親子の関係性向上にも役立ちます。
もし、お子さんが「これ読んで!」とお願いしてくるのであれば、それは、まだ読み聞かせを欲している証し。毎日読み聞かせをしなくてもいい。忙しかったら、たった5分でもいいので、今までのように「読み聞かせ」の習慣をストップしないでほしいのです。
なぜなら、読み聞かせの卒業は、親ではなく子どもが決めるものだから。
私自身、余裕がなくて断りたくなるときもあります。でも、そんなときに自分に言い聞かせているのは、「抱っこと一緒!」というフレーズです。そう、読み聞かせは、抱っこのようなものなのです。
きっと、皆さんもお子さんに「抱っこ、抱っこ」とせがまれていた時期は、「重いから大変」「早く降りてくれないかな」と思っていたのではないでしょうか。でも、それも過ぎ去ってしまえば、懐かしい思い出になっていませんか?
考えてみれば、子育ては「卒業」の連続です。ふと気がついたら、抱っこと言ってこなくなった。膝に乗ってこなくなった。親を探さなくなった。一人で食べられるようになった。そうやって子どもは巣立っていくのでしょう。
読み聞かせも同じだと思うんです。きっと、そのうち「読んで!」とは言わなくなる。であれば、「読んで!」とお願いされるうちが華。だから、私は断る前に「今日が最後かもしれないぞ!」と思って、できる限り、応えるようにしています。
本の推奨年齢は気にしない!
字が読めるようになって、自分の世界がどんどん広がってくる低学年の今こそ、読み聞かせで心掛けていることが2つあります。1つ目は、子どもの希望を聞くこと。2つ目は、子どもと一緒に面白がることです。
だから、選書についても深く悩みません。本の裏表紙に「5歳から、自分で読むのは小学生から」などと推奨年齢が書いてありますが、実は全く参考にしていません(笑)。なぜなら、本人の興味関心や成長段階に合わせるものだと思っているから。
皆さんも、子どもの発達において、標準ってあまり当てにならないと感じませんか? だって、赤ちゃんのときからそうですよね。「何カ月になったら、寝返りができる、ハイハイをするようになる」と言われますが、実際は、その子それぞれです。
私も子育ての最初の頃は、標準通りに子どもが成長していないことが不安で不安で、いろんな育児書を読みあさっていました。「完璧に子育てしたい」という気持ちがあったからです。でも、どんなに育児書を読んでも、そこに答えはなく、本人を見るのが一番正解だなと思いました。その考えは今でも変わっていません。
子どもが図鑑を「読んで!」と持ってきたときは、どこを読んだらいいのか迷ってしまいました。そこで、「どこを読んでほしいの?」と聞いてみたところ、小さい囲みの解説を読んでほしいと言うのです。漢字が多くて読み進められなかったけれど、知りたい、という気持ちがあったのでしょう。
もしあの時点で私が読み聞かせを断っていたら、図鑑を眺めていて芽生えた好奇心が膨らまずにしぼんでしまったのかもしれません。子どもの好奇心の芽を大事に育てていくためにも、これからも「いつでも読むよ」というメッセージを発信し続けたいと思った瞬間でした。
上から目線はNG 一緒に面白がること
もう一つ心掛けているのは、一緒に面白がることです。
先日、息子が「読んで」と持って来たのは漫画でした。「漫画を読み聞かせるって?」と戸惑いつつもチャレンジしてみたところ、とても面白くて。文章だけの本よりも話者が分かりやすいから、登場人物になり代わって声色を変えてみるなど、いろいろと工夫の余地があり、意外と読み聞かせに向いていることが発見できました。読み聞かせの新ジャンルを開拓した気分です。子どもと同じ目線で、一緒に面白がるスタンスでいると、自分にとっても発見や学びがあるようです。
思えば、私は「子どものために読もう」と考えたことが一度もありません。本が好きなので、いつも「一緒に楽しむ」というスタンスを貫いているのですが、どうやら「上から目線」にならないことは、子どもの自主性を育むきっかけにもなっているようです。
いろいろな本を読み聞かせながら、私がいつも「わあ、面白いね!」「知らなかった!」「すごいね~!」などと新鮮な反応を示すので、息子は、「お母さんって子どもみたい」「何も知らない人」などと思っているようです。でも、子育てにおいては、親は子どもに頼りなく思われているくらいでちょうどいいのでは。息子は、「自分が親を助けなければ」という使命感を抱いているらしく、先日の夜、仕事から帰ってきたときには、「お疲れさま」と、紅茶とケーキを出していたわってくれました。
長編、伝記…親が読んであげれば子の読書の幅がさらに広がる
小学生になってからも親が読み聞かせを続けるメリットは、子どもの読書の幅が広がることにもあると思います。わが家では、選書は基本的に子どもに任せているのですが、その際、親に読んでもらえるという安心感があると、子どもはいろんなジャンルの本に挑戦できるようです。
将来、宇宙飛行士になりたい息子は、以前から宇宙が大好き。学校の図書館で『ガリレオ・ガリレイ』の伝記を借りてきて読み聞かせをしたことがきっかけで、伝記好きにもなりました。
もし、本人の読解力に合わせて選書していたら、字の少ない絵本だけ選んでいたかもしれません。長編を読み聞かせするのは大変ですが、「毎日10ページだよ」「今日はここまでだよ」とあらかじめ子どもに伝えたら、最後まで読まなくても子どもは納得します。日が空いてしまったときに読み始めを間違えたら「そこじゃない!」と指摘されたことも。案外、子どものほうが内容を覚えているもの。ぜひ、子どもと一緒に親も面白がって、いろんな本を読んであげてほしいですね。
1981年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒、アビームコンサルティングを経て北陸放送でアナウンサーとして10年勤務。出産後はコーチングに転向。TCS認定プロフェッショナルコーチ、マザーズコーチングスクール認定トレーナーの資格を取り、コーチングセッションや、保育園・幼稚園向けのナーサリーコーチングなどを行うほか、企業のリーダー研修やキャリアデザイン研修などの講師としても活躍。金沢市在住。
(取材・文 児玉真悠子、写真 遠藤素子)
[日経DUAL 2020年5月25日付の掲載記事を基に再構成]
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