かき氷にカレー、洋食 昼は別の顔「二毛作」居酒屋
新型コロナウイルスの影響で、特に夜の営業が中心の居酒屋は苦境に陥っている。そこで昼にランチとは全く違う業態を展開する「二毛作店」として生き残りをかける居酒屋が出現しはじめた。かき氷店、カレー店、洋食店など、客にとっても魅力的な昼間の店で、新しい食体験が楽しめるようになった。
国内17店、海外17店を展開しているKUURAKU GROUPは、居酒屋4店舗にて昼だけかき氷専門店をスタートした。5月30日に「生つくね元屋 北千住店」にて「純氷かき氷 ゲンヤ堂 北千住店」を、6月2日に「博多屋大吉」(東京・銀座)にて「純氷かき氷 大吉」を、6月6日に「生つくね元屋 町屋店」にて「純氷かき氷 ゲンヤ堂 町屋店」を、同日「くふ楽 本八幡店」にて「純氷かき氷 楽 本八幡店」を開店。どの店も昼12時から午後4時30分まで営業し、それ以降は居酒屋に変わる。
同社の店舗はもともと外国人客にも人気で、トリップアドバイザーのエクセレンス認証も受賞している。東京・銀座の4店舗の中には約6割がインバウンド客という店もあり、毎月1000万円以上を売り上げていた。だが新型コロナウイルスの影響で、そのうち3店舗が売り上げが半減してしまった。
「緊急事態宣言後、再び店を営業しても海外からの外国人客が見込めない中で、どうやって戦ったらいいのか。テークアウトやランチは競合が激化し、すでにレッドオーシャン。何か良い方策はないのかと考えた時、当社の海外店舗で導入を検討していたかき氷店のことが思い浮かんだのです」と説明するのは、同社外食事業本部マネージャーの大久保裕貴さん。
同社はスリランカでも焼き鳥居酒屋を展開。暑い国なので、現地ではアイスクリームなどがよく売れるが、日本のようなかき氷はまだなく、それを現地で売るために数年前から氷の研究やかき氷市場を調査していた。
「これから日本は夏なのでちょうどいいかも」と急きょ、かき氷店を国内で始めることに。開店準備に費やした期間はたったの1週間。もともと自社内でチラシのデザインなどを手がけていたからこそのスピード対応で、5月末から立て続けにオープンすることができたのだ。
近年、口に入れるとスッと溶けてすぐになくなる「ふわふわかき氷」がはやっているが、同店のかき氷は、「純氷」というマイナス約10℃でゆっくり凍らせた氷を使用。削り具合を調整することで、すぐには溶けず、シャリシャリ感とふわふわ感の両方が味わえるように工夫した。「猛暑になるといわれている今年の夏にはピッタリだと思います。すぐに溶けるとテークアウトに向かないですし」と大久保さん。
味はメロンやイチゴ、マンゴー、宇治金時などをそろえるが、かき氷にかけるシロップは市販のものではなく、店内で果物からていねいに抽出した果汁で作った自家製フルーツソース。甘すぎず素材の自然なおいしさを楽しめ、果実ものっている点が人気だ。
大久保さんは、「スタッフ1~2人で営業できるので夜営業よりも利益率が高いですし、昼に来店してみて『密』ではない店だと知り、夜に子連れ家族で来てくださったお客様もいて、相乗効果も感じています」と手応えを感じている。
かき氷は若い女性だけでなく、中高年の男女などにも人気だ。今後は秋の食材なども使って新しいかき氷も考えていくという。
次は昼だけカレー専門店に変わる居酒屋。国内12店舗・グアムに1店舗を展開する居酒屋「やぶ屋」(経営:やぶやグループ)の系列店「ひつじのやぶや」(名古屋市)は、全国に74店舗を展開する金沢カレーの名店「ゴーゴーカレー」とコラボレーション。6月8日から昼限定でゴーゴーカレーが監修する「カレーのやぶや」をオープンした。昼はカレー専門店として、夜は従来通りラムのおいしい居酒屋として営業している。
やぶやグループの本部スタッフの田村裕美さんよると、「『ひつじのやぶや』はランチに適する一等地にあるにも関わらず、営業時間が夜だけだったので、機会があればランチを始めたいと思っていました。そんな時、ゴーゴーカレーさん側からご提案をいただきました。オープン初日にゴーゴーカレーさんが看板を出して『街宣』してくれた影響もあり、1日100食限定がオープン3日間は完売しました」とのこと。
「ゴーゴーカレー」側がカレーソースを「カレーのやぶや」に提供し、調理オペレーションやテークアウトなどのノウハウを伝授して昼の店をプロデュース。「もともと炊飯器や揚げ物用のフライヤーなどは夜の居酒屋でも使っていたのをそのまま昼でも使うので、かなり安い初期投資でスタートさせることができた」(田村さん)という。
金沢カレーはドロッと濃厚なカレーソースが特徴で、ステンレス皿に千切りキャベツと一緒にカレーとトンカツなどがのせられたもの。ガッツリ系の男性などを中心に全国にファンがいる。「金沢カレーは聞いたことがあったが、名古屋にはなかった。今回初めて食べたら意外に量が多くてびっくり!」との感想をもらす客が多い。
メニューは基本的に「ゴーゴーカレー」と同じで、「ロースカツカレー」(中サイズ税込み800円)が一番人気だ。名古屋めしの台湾まぜそばにものっているピリ辛ミンチをカレーにかけた「台湾カレー」(中サイズ税込み800円)は「カレーのやぶや」だけで提供するコラボカレーで、人気3位にランクインしている。
オープン時に店に応援に駆けつけたゴーゴーカレーグループ代表取締役の宮森宏和さんは、「転勤族などでゴーゴーカレーを食べたことがあるお客様も懐かしんで来てくださり、『これからは名古屋でも金沢カレーを食べられるなんて!』と喜んでもらえました」とうれしそうに話す。
「カレーのやぶや」は地元のテレビ番組などにも取り上げられて話題となっている。夜の居酒屋の予約が昼営業中に入ることもあり、相乗効果も見られるようだ。やぶやグループは今後の集客の状況を見ながら、ほかの系列店へも昼のカレーを導入するかを検討していくと話す。
最後は二毛作業態として6月8日に開店した「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ 大崎店」(東京・品川)。もともと「フタマタ」は二つの地域・二つの食材をキラーコンテンツとした業態で、都内に9店舗を展開。大崎店は、博多&高知、かわ串&餃子の"フタマタ(二股)"に加えて、昼は洋食店・夜は居酒屋と業態でも"フタマタ"の形でオープンした。
昼時は「ハンバーグランチ」(税込み980円)や「唐揚げミートスパゲッティー」(税込み690円)などを提供。「洋食」と大きく書かれたのれんを店頭に掲げている。一方、夜になると、「博多かわ串」「高知餃子」と書かれたのれんに変えて営業。
本場博多のソウルフード「博多かわ串」(税別1本170円)は、毎日1本ずつ5日間かけてていねいに焼き上げた、こだわりの「6回焼き」だ。表面はカリッと、中はジューシーで濃厚なうま味が広がる。「高知餃子」(税別450円)は注文ごとに薄皮で包む一口サイズの焼きギョーザ。どちらも関東では珍しい。
同店を経営するゴールデンマジックブランディング部部長の深迫文子さんは、次のように説明する。「大崎店は駅近くのオフィス立地でサラリーマンが多く、周辺をリサーチすると和食ランチ店が多くありました。和食ランチが多いお客様が、ほかに食べたいランチは何かと考え、なじみがあって昭和を感じるような純喫茶の洋食にたどり着きました。居酒屋の延長となる和食ランチよりも、大崎のお昼のお客様が求めているお店にすることで、お客様の満足度をより高められると考えました」。
同社では都内に様々な居酒屋を展開しているが、同エリアのほかの居酒屋の和食ランチに比べて多く集客している。夜の「酒場フタマタ」を昼の客に知ってもらうきっかけにもなり、店の認知度も上がったという。
ちなみに姉妹店の「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ」の小岩店と西池袋店では4月から、昼間は青果店として営業している。「農家さん応援企画」として、店で使用する予定だった契約農家直送の野菜の一部を店頭で販売している。
さらに7月16日オープンした「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ 蒲田店」では、夜の居酒屋営業のほかに、小岩店のような昼間の青果店と、冒頭の大崎店のような洋食に、サンドイッチやパンケーキもプラスした「洋食喫茶」と、3毛作のハットトリック業態で営業開始したところだ。
居酒屋は緊急事態宣言解除後も客が戻りにくいアルコール提供の業態として苦戦している。各店生き残りをかけ、知恵を絞って新しい二毛作経営を模索中だ。新たな魅力を備えたこれらの飲食店は、客にとってもwithコロナ時代の新しい食の出合いになるだろう。
(フードライター 古滝直実)
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