AIは仕事を奪わない 人間の感性が新たな価値を生む『人工知能が変える仕事の未来[新版]』

細かく指示されなくても、依頼主の意図をくんで最大の成果を上げるように動く。このようなAIは「エージェント」と呼ばれます。「人間の秘書なみに優秀なエージェントを2045年までに開発するのは難しい」と著者は予測していますが、もう少し長い視点で見れば夢の技術が実現する可能性はあります。

人間に求められる資質

AIの時代には、人間は、ビジネスや技術面の創造性はもちろん、個性、文化、アートな感性で、価値をアピールできる比率が高まります。文系学部、芸術系学部の軽視などとんでもない間違った政策です。人間を出来損ないの機械、鈍感で不正確な定型業務に携わる中途半端な存在のように教育してはなりません。遊び心、悪戯心、新しい美の追求を思う存分、のびのびできるように、教育の現場を変えていくことで、日本の勝機が増えるでしょう。ハードウェアがタダ同然に安くなり、機械学習エンジンを含む共通ソフトウェアも多くは商用フリーで出回る時代です。より上位のコンセプト創造、オリジナル・コンテンツの制作、その流通・享受の仕組みのところが、必然的に、大きな価値を生むようになります。
(第7章 X-Techの時代  256ページ)

人間が石器を発明した時代から、道具とは特定の用途において「人間の能力を超える存在」です。この点はAIでも変わりません。機械(道具)が人間を不幸にするという考え方は、産業革命の頃からありました。機械を打ち壊すラッダイト運動を例にとり、著者はこう指摘します。「ラッダイト運動に始まる機械脅威論は、マクロ経済の視点が欠けています。単純労働、つらい労働を機械が代行するなら、人間は根本的に『楽ができるようになる』わけです」。生産性向上で社会の富が増え、人間はより創造的な業務に集中できるでしょう。単純労働から解放されて、ベーシックインカムで「遊んで暮らせる」生活が訪れてもおかしくないのです。

「AIが職場での自分のポジションを奪う」という早計な誤解を解くのが本書の狙いだと著者は最後に強調します。あなたも、人間の頭脳が持つ能力と道具としてのAIの力を共存させることで、どのような未来を実現できるか想像してみませんか。

◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・田口恒雄

本書は、2016年11月に刊行した単行本を大幅に改訂、その後の動向についてフォローアップするとともに、産業への人工知能(AI)の応用に関する記述を割愛し、文章もより読みやすくして出来上がったものです。AIの研究・開発からビジネスの現場にまでよく通じている著者ならではの「本当のAI」がわかる格好の入門書といえます。

著者は、これからは、AIにはない人間ならでは力を発揮することが重要になると言い、この観点から2019年に『AIに勝つ!:強いアタマの作り方・使い方』という本も刊行しています。AI時代を楽しく生き抜くためのヒントを得るために、本書と併せて読まれることをお奨めします。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

人工知能が変える仕事の未来<新版> (日経ビジネス人文庫)

著者 : 野村 直之
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 990円 (税込み)

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