AIは仕事を奪わない 人間の感性が新たな価値を生む『人工知能が変える仕事の未来[新版]』

人間が単純労働から解放されて「遊んで暮らせる」未来は実現するか
人間が単純労働から解放されて「遊んで暮らせる」未来は実現するか

人工知能(AI)は私たちの働き方にどのような影響を与えるのだろうか。今回紹介する『人工知能が変える仕事の未来[新版]』は、開発・研究の第一線で活躍している専門家が一般のビジネスパーソン向けに書いた解説書。「近い将来、自分の仕事はAIに奪われるのではないか」といった不安を感じている読者に一読をお勧めしたい。AIには何ができて何ができないのか、をきちんと理解すれば先端技術を自分の暮らしや仕事に生かす発想が芽生えてくるはずだ。

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野村直之氏

著者の野村直之氏はAI技術開発を手がけるメタデータ(東京・文京)の社長です。理学博士で、東京大学大学院医学系研究科研究員でもあります。1962年生まれで、1984年に東京大学工学部卒。NEC C&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務を経て、メタデータを創業。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員も務めました。

第3次AIブームの到来

情報通信白書によると、はじめてAIへの社会的関心が高まったのは1950年代半ばです。人工知能という研究分野を確立したダートマス会議が開かれたのは1956年でした。第2次ブームが訪れたのは1980年代です。当時、日本では政府による「第5世代コンピュータ」と名付けられた大型プロジェクトが推進されました。著者はこの時代から世界の最先端研究の現場に身を置いています。1990年代にMITの人工知能研究所で人工知能の父と言われるマービン・ミンスキー氏や自然科学としての言語学を創始したノーム・チョムスキー氏らの薫陶を受けました。その後、再び「冬の時代」を迎えますが、00年代になると今に続く第3次ブームを迎えます。コンピューターの性能向上などを背景に、ディープラーニング(深層学習)といった新しい枠組みが登場してきました。

本書の記述内容は専門的な部分もありますが、決して難しいことはありません。数式もソフトウエアのソースコードもまったく登場しないので、文系の読者も安心して手に取れると思います。AIを各産業に応用することの意味を考え、その普及が社会と人間の役割をどう変えていくのかを考察するのが本書の狙いの一つです。

知能とはなにか

そもそも「人工知能」とは何でしょうか。前提として「知能とはなにか」を理解する必要があります。知能とは「経験したことのない、未知の事態に遭遇して、その場で問題解決のアイデアと具体的な手法を発明、考案し実践し、それを証明する能力」を指します。人工知能の研究が始まって半世紀あまりが経過しましたが、著者はこうした意味で知能を実現するコンピューター技術は、まだ実現していないと見ています。ただし、一般的にAIはもう少し広い概念となっています。

実際、ビジネス関係者の会話の中でも、テレビ番組での取り上げられ方でも、AIには様々なニュアンスが伴います。画像や動き、音声を認識したり、人間の言葉や感情をわずかでも解釈するような技術要素が入れば人工知能とされます。また、チェスや将棋、囲碁のように人間がプレイヤーとなって頭を使うゲームや作業も、全般に人工知能と呼ばれがちです(実態が機械学習などの人工知能の手法を使っていなくとも)。楽器の演奏など身体を駆使した、従来は人間にしかできなかった作業全般も、人工知能が制御するロボットの技術と認知されています。対話ロボットなどのソフトウェアや、クイズに答えるソフトウェアは、情報のランキング、レコメンデーションと似た技術の延長にあります。にもかかわらず、やはり人間臭いところから人工知能、と認識されていることでしょう。
(第1章 第3次ブームのAI(人工知能)は何ができるのか? 40~41ページ)
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