――海外はABM(アカウント・ベースド・マーケティング)が先行しています。

「ABMは世界のBtoBマーケティングで主流になりつつあります。ABMの定義は『ターゲットアカウント(標的とする企業)からの売り上げを最大化する』ことです。『最大化』というのは、既存顧客にこれまで売ってこなかった製品を買ってもらう、未導入の事業所に採用してもらうということです。つまりは『競合が入り込む余地を排除する』ということです」

「ABMは米国のコンサルティング会社、ITSMAが提唱したもので、2013年ごろから世界的に注目されるようになりました。日本でやや曲解されているきらいがあります。例えばインターネット上の住所にあたるIPアドレスから企業を特定して、リターゲティングすればABMである、などです」

「日本でABMの普及が進まない理由には、営業の位置づけが欧米とは根本的に違う点にあるのではないでしょうか。欧米では基本的に営業はセールスレップ(販売代理人)です。プロのセールスだからルールは守る。その代わり会社に対するロイヤルティー(忠誠心)はさほどなく、社内の勢力争いには足を踏み入れない。一方、日本の経営トップは技術部門や管理部門の出身者が多いため、営業部門に対してやや遠慮があるように思えます。それが一つの原因になっているのかもしれません」

求められるマーケティングの基礎知識

「日本企業のBtoBマーケティングで最大の問題はマーケティング部門が社内で孤立していることです。社内でのマーケティングに対する理解が低く、他部署から見ると何をやっているかわからない集団にみえているのかもしれません」

「例えば『STP分析』や『イノベーションのベルカーブ』『ホールプロダクト』『キャズム』などのマーケティングのフレームワークは、米国では営業職、研究職にかかわらず管理職以上であれば基本的に全員が理解しています。ただ、日本では違います。いままさに、経営層はもちろん、マーケティング部門以外の人にもマーケティングについての基礎的な知識が求められています。これがなければ本質的なABMを実行することはできないからです」

庭山一郎 シンフォニーマーケティング社長 1962年生まれ。中央大学卒。1990年9月、シンフォニーマーケティング設立。数多くのマーケティングプロジェクトを手がけ、97年からBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。中央大学大学院ビジネススクール客員教授。

「米国に比べると日本ではMBA(経営学修士)を取得する人はまだ少ないのが実情です。MBAを取得するためのビジネススクールは、士官学校に例えられます。十数人の小隊からはじまり大部隊に至るまで、指揮を執る人は戦術や戦略、ロジスティックなど、基礎的なことを習得している必要があります。マネジメントも同様です。MBAはトップマネジメントを育てるものであり、専門特化した領域はありません。ただ、マーケティングからファイナンスまで幅広い基礎知識が必要になります。だから部隊を指揮できるようになるのです。往々にして日本のマネジメント層にはこれが不足しているといえるでしょう」

「経営者がマーケティングを理解していないと、全体最適な仕組みをつくることはできません。例えば、来期の売上高を300億円積み増すとして、8割の240億円は既存顧客で、残り2割の60億円をマーケティング由来でつくるとした場合、案件単価から必要な案件数を導き出し、減衰率も勘案した上で、逆引きでマーケティング活動を設計して、必要なリード数(見込み客数)を算出します。そして蓄積した見込み客データを基点にナーチャリング(見込み客の育成)を行い、ターゲットを絞り込むことにより必要な案件を出していくのです。このマーケティングの仕組みを設計、構築できていない企業が大多数なのです。これからの時代、経営者がマーケティングというものをしっかり腹落ちさせることが不可欠です」

(平片均也)

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