パナソニック10年ぶり電気圧力鍋 「5倍売れた」理由

日経クロストレンド

パナソニックが2019年7月に発売した電気圧力鍋「SR-MP300」。約1年が経過した今でも安定的に売れている(写真提供/パナソニック)
パナソニックが2019年7月に発売した電気圧力鍋「SR-MP300」。約1年が経過した今でも安定的に売れている(写真提供/パナソニック)
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共働き世帯を中心に支持され、ここ数年市場が拡大し続けている調理家電。中でも、圧力をかけることで加熱時間を短縮できる電気圧力鍋が好調だ。パナソニックは2019年7月、10年ぶりに電気圧力鍋をリニューアル。新モデル「SR-MP300」は、新型コロナ禍を受けた料理需要の増加を追い風に4~6月は計画比5倍のペースで売れたという。

老舗メーカーが10年ぶりに新モデル

食材を入れてスイッチを入れるだけで料理が完成する「電気調理鍋」。シャープ「ヘルシオ ホットクック」やティファール「クックフォーミー」などが人気ブランドとして知られているが19年下半期以降、パナソニックの製品がヒットランキングに割って入っている。

パナソニックは実は、40年以上前の1977年から電気圧力鍋を販売する老舗メーカーだ。ただ09年以降新モデルを出していなかったこともあり、ここ数年は存在感が薄かった。それが約10年ぶりに「SR-MP300」を投入。これが1年間は販売好調を維持している。同社は販売数を公表していないが、「発売以来、およそ計画の3倍のペースで売れている。特に巣籠り消費が高まった20年4~6月には、計画比5倍になった」(パナソニック アプライアンス社コンシューマーマーケティングジャパンの岡橋藍氏)という。

Amazon.co.jpや価格.comの売れ筋ランキングでも、7月上旬の時点で電気圧力鍋の分野でそれぞれ1位を獲得。パナソニックの電気調理鍋としては、久々のヒット商品となった。

初心者も中・上級者もターゲットに

人気の秘密は、利用者のニーズに対して「最大公約数」で応えるような機能や仕様を目指した点にある。09年発売の前モデル「SR-P37」と比べて、新モデルは劇的に機能を強化したわけではない。圧力鍋の基本性能である最高圧力や容量など、むしろ減っているところもある。

調理容量を前モデルの2.4リットルから2リットルに減らしたのにも理由がある。デザインは大きく変わった

今回のリニューアルを行った狙いについて商品企画を担当したパナソニックの高桑恵美氏は、「料理初心者に配慮しつつ、『時短はしたいが手は抜きたくない』という中・上級者も大事にした」と話す。同社が調査したところ、料理初級者に多い「とにかく時短で料理を作りたい」という層が56.1%と最多だったものの、「時短でも、手は抜きたくない」という料理好きも39.6%と多数派だったことが分かった。

そこでまず、料理初級者でも使いやすいように、材料を入れてコースを選ぶだけで火加減が自動でできる「自動調理」機能を追加。7種類の定番料理(カレー、肉じゃが、角煮、ヘルシースープ、玄米、黒豆、甘酒)をワンタッチで作れるようにした。そのうち5つのコースでは、予約調理ができる。例えば会社員が出勤前の朝に材料を入れて準備をしておけば、帰宅時には夕食ができ上がっているといった使い方が可能になった。

料理中級・上級者にも使いやすく配慮した点は、SR-MP300が自動調理メニューを7つに抑えたところによく表れている。シャープの「ヘルシオホットクック KN-HW24E」は130種類、ティファールの「クックフォーミー エクスプレス」は210種類ものメニューを内蔵している。「ただ料理がある程度できる人にとっては、自動調理メニューが多くても使いにくい」(高桑氏)という考えに基づき、新モデルでは思い切って絞り込むことにした。

例えば、「鶏肉」が指定されている煮込みのメニューを使いたいのに、手元には豚肉しかないといったことはよくある。そのまま豚肉を使ったときに、自動調理メニューでそのまま適切に調理できるとは限らない。もし加熱時間を自分で可変できれば、材料の種類や分量に応じて自由にアレンジができる。こうした設計のため、約80の料理を収録したレシピ本を添付。本を見ながら適切な加熱時間を調べて調理するのが、この製品の基本的な使い方だ。

この他、「無水調理」機能も加えた。無水調理は、素材の持つ水分を生かすことで野菜などの甘みを引き出せる点に特徴がある。手を抜かずおいしい料理を作りたいという要望に応えた格好だ。

調理容量を2.4リットルから2リットルに減らした点も、ターゲットを広げヒットを生む原動力となっている。発売前の19年上半期の時点では、他社の売れ筋の電気圧力鍋は調理容量が1.6リットル以下または4リットル以上が主流だった。ところがSR-MP300は、あえて中間の「4~5人分のカレーが作れる容量」(高桑氏)である2リットルの調理容量を選択。結果として、一般家庭で最低限必要と思われる容量を確保しつつ、本体サイズを前モデルよりも一回り小さくすることができた。

デザインは大きく変えた。以前は一昔前のガス圧力鍋風だったが、今回はキッチンで出しっぱなしにしていても違和感のないシンプルなデザインに変更している。

09年発売の「SR-P37」は、その前のモデルからおもりが目立つデザインを踏襲していた
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店員に頼らず「圧力鍋の特徴」を展示で説明