「ゲリラ豪雨」被害減らす新習慣 防災は雲の科学から気象庁 気象研究所 荒木健太郎(最終回)

「1時間の間に100ミリメートル、つまり、10センチの水が溜まるということですから、1メートル四方あたりの重さとしては100キログラムです。つまり、1時間に一度、体重100キロの小ぶりな力士が落ちてくるのと同じだと考えてください。その雨の中では、もう視界を奪われて、雨滴が地面を叩きつける轟音以外聞こえなくなります。滝の中にいるような圧迫感だとよく言われますね」

1メートル四方の地面に、小ぶりながら立派な力士が降臨する姿を想像すると、なにやらものすごいことであるのはよく分かる。それも隣の1メートル四方にも、またその隣の1メートル四方にも同じように降ってくるのである。恐ろしい。

1時間に100ミリメートルの雨のイメージ(『雲を愛する技術』(光文社新書)より)

「局地的大雨も集中豪雨も、局地的な現象ですから、たしかに予測は難しいんです。今は、予測に成功することもありますが、でも、予測できないことも多いので、精度を上げていくのはやはり大事です。積乱雲ができるには、下層の空気を持ち上げるメカニズムが必要です。このメカニズムにもいろいろありまして、まずは関東地方の話をしましょう」

具体例に入る前に注釈しておきたいのだが、積乱雲というと「夏休みの象徴」ともいえる入道雲を想像する人が結構いるようだ。しかし、ちょっと違う。入道雲は雄大積雲のことで、積乱雲の弟分だ。入道雲がさらに成長して、雲頂が成長限界(対流圏の界面)に達すると、横に広がりだして「アンビル」という構造を見せたり、高空のジェット気流の影響でてっぺんが毛羽立ったり、吹き飛ばされた氷晶からなる巻雲を伴ったりするようになる。この規模になったところで、積乱雲と呼ぶ。坊主頭の入道雲には、まだまだ上に成長の余地がある(なお、積乱雲になっても、頭がてらっとした「無毛」のままの場合があるので、入道雲だと思っていたら、実は成熟した積乱雲だったということもありうる。ここでは入道雲=積乱雲ではないと知ってもらえればよいと思う)。

多毛積乱雲(上)と、積乱雲の弟分である雄大積雲(下)。てっぺんの形に注目。積乱雲では雲頂はだいたい横に広がり、鍛冶で使う作業台の「アンビル(かなとこ)」に似る。雷やにわか雨、雹などを伴うのも特徴。対して、雄大積雲のてっぺんあたりはカリフラワーのような形をしており、雷や雹は伴わない(写真提供:荒木健太郎)

いずれにしても、こういう雄大積雲や積乱雲は、下層の大気がなんらかの原因で持ち上げられて、持ち上げられた先の周囲の大気との関係で、自ら上昇し始めることで始まる。最初の上昇のきっかけは外から与えられる必要があり、それを「対流の起爆」と呼んでいる。起爆が起これば、その後、積乱雲は自ら成長していく。

起爆の原因となりうるのは、こんなふうだ。

「晴れて気温が上がる夏の日には、関東甲信地方では大規模な海風が発生します。海上から内陸に向かう風なので水蒸気がたくさん含まれています。それが、山地に当って上昇することで起爆がおきます。これはまだ比較的予測しやすい場合です」

この場合、山という目に見えるものによって空気の塊(つまりパーセルくん!)が持ち上がり、起爆が起きる。荒木さん自身が、マイクロ波放射計(後述)という装置を使って、水蒸気分布を調べ、そのメカニズムをあらわにした研究がすでにある。

「対流の起爆」が局地的大雨を予測するカギの1つだ

「水蒸気をたっぷり含んだ海風が吹き込んできて、高度1.5キロくらいまでの厚さで水蒸気量が増えるんです。よく『大気の状態が不安定』といいますが、下層の水蒸気量が増えるほど不安定になり、不安定の度合いが大きいほど積乱雲は少しの持ち上げでより高くまで発達できるようになります。日中12時ぐらいにかけて不安定度がピークになって、それから降水が始まり、その降水ピークは17時です。そうやって、大気の不安定な状態が解消されるわけです。山で発生する積乱雲は、どこかで発生しそうだということはある程度は予想できつつあるんですが、正確な予測は未だ難しい状況です。私たちがやったこういう観測って、それまでなかったので、積乱雲発生のプロセスを理解していって、予測モデルを改良していけるかな、というところです」

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