数学好きが「最高の雲」に出合うまで 雲の科学への道気象庁 気象研究所 荒木健太郎(4)

「2014年に、はじめて一般書を書いてから、雲が今みたいに好きになりました。その時に、初めて雲の『心情』を考えたんですよ。空気の塊のキャラ、パーセルくんを使って、積乱雲の一生を考えてみたり、ですね」

「積乱雲の一生」(「雲を愛する技術」より)

荒木さんが描く「積乱雲の一生」の中で、パーセルくんは実際に「感情を持つ空気の塊」だ。積乱雲ができるには、まず何らかの理由で空気の塊が持ち上げられて上昇気流を作らなければならない。たとえば、冷たい空気に温かい空気が持ち上げられる場合など。冷たいパーセルくんと温かいパーセルくんとの間で、

「お前、マジすごいわ」

「マジか」

などと言葉が交わされる。

やがて、温かいパーセルくんが自発的に上昇しはじめると、

「オレ、すごいかも!このままひとりで昇れるわ!」

「もう勝手にやってろ」

ということになる。

そして最終的には越えられない壁(対流圏界面)に達し、降水などをきっかけに、パーセルくんは負の感情(冷たい下降流)に支配されて、「もーだめだー!!」と雲は衰弱していく。積乱雲は、いい気になって成長したにもかかわらず、自らの負の感情で自滅する自虐キャラなのである。

ただし、希望(?)もある。地上に達した下降流は新たな冷たい外出流のパーセルくんとなり、別のパーセルくんを持ち上げて上昇流を生む。「お前、マジすごいわ」などと言いながら……。

ユーモラスだが、きっちりついていくにはそれなりに集中力を要する。やわらかい言葉の背後には必ず物理過程があり、数式は使わずとも数式に忠実。そんな筆さばきだとぼくには思える。しかし、それと同時に、荒木さんは、雲のことを「この子は格好いい」などと愛しげな目で語るのである。

というわけで、ポップな雲研究者荒木さんは、実はゴリゴリの数式愛の人であり、同時に雲愛の人である。雲を愛する技術は、数式に裏付けされている! そのように理解しておけば、これから荒木さんの一般向けの著作を読む時に、より深みを感じられるに違いない。

さて、そんな硬軟両面から雲に肉薄する荒木さんに聞いてみたいのは、荒木さんにとっての「自分史上最高の雲」だ。

数式的な関心と、あふれる雲愛とが重なり合った頂点にある雲とは?

「この、動画見てください」と荒木さんは言った。

荒木さんが撮影した「自分史上最高の雲」の動画URLは「https://youtu.be/-B1f-PCPdcA」

「2015年8月に、この建物の屋上で撮った雲なんですけど、スーパーセルっていう巨大な雲に伴ってできるウォールクラウドというのを初めて見たんですよ。レーダーの画像を見ていたら、何かが来そうだったので、屋上にあがって張っていまして、それで偶然、これに出会えたんで、テンションが上がりました。実は、日本国内でこういうスーパーセルに伴う雲の時間変化がちゃんと観測されたのは初めてだったので、そのまま気象学会誌に投稿したくらいなんです」

スーパーセルというのは、長寿命で巨大な積乱雲のことで、強い竜巻を発生させたり、巨大な雹(ひょう)を降らせたりする。遠巻きに見ると、巨大な塔のような雲が、反時計回りにゆっくり回転しているのが分かり、終末もののSF映画に出てきそうな禍々しい光景になる。

一方、日本ではあまり発生しないし、きちんとした観測例もなかった。だから、つくば市でスーパーセルが発生し、それを荒木さんが見ていたというのは、ただ見た目がすごい雲の写真や動画の記録が残された、というだけでなく、学術的な意味も大きかった。

今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
注目記事
今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録