数学好きが「最高の雲」に出合うまで 雲の科学への道気象庁 気象研究所 荒木健太郎(4)

ナショナルジオグラフィック日本版

研究室には荒木さんが撮影した写真が壁一面にレイアウトされている
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物に専門分野の魅力などを聞く人気コラムです。今回転載するのは、アニメ映画「天気の子」(2019年公開)の気象監修を務めた荒木健太郎さんが「雲の科学」を語るシリーズ。夏にはちょっと涼しい雪の結晶の話題から、危険な集中豪雨をもたらす積乱雲の予測まで、美しい画像とともに解説してくれます。

◇  ◇  ◇

気象研究所の研究官、荒木健太郎さんは、自らを「雲研究者」と呼ぶ。

「雲愛」という言葉を使い、雲を愛する仲間「雲友」の輪を広げようと呼びかける。最近出たばかりの荒木さんの著書のタイトルはまさに「雲を愛する技術」だ。

「雲研究者」を自称する荒木健太郎さん

さらには、ネットをフル活用した「#関東雪結晶 プロジェクト」や「霜活」、さらに日々Twitterなどで公開される雲の写真などから、荒木さんのことをポップな研究者だと感じている人が多いかもしれない。

では、荒木さんはどんな道筋でここにたどり着いたのだろうか。さぞかし雲ばかり眺めているような少年時代を過ごしてきたのだろうと想像する。

ところが、そうでもなさそうなのである。

「高校くらいから気象には興味があったんですが、今みたいに『雲愛』だとか言っていたわけではないんです。数学が好きだったんで、数学を応用して研究できるような分野として気象を意識していて、進路にも考えていました。それでも、大学は最初、経済学部だったんですよね」

経済学部と聞いてなるほど、と思う。いわゆる「文系」に分類されがちだが、現代の経済理論は高度に数学化されているし、追究しようと思ったら数学適性は必須だ。数学を応用して研究したい高校生が、気象学と経済学を進路に並べて考えるというのは納得できる。

川端裕人さん

とはいえ、荒木さんは経済学部に入ってから違和感にとらわれる。

「経済学って、数学を駆使してやるもんだと思ってたんですけど、僕が入った時のその大学では、経済学部の先生たちもこっちは文系だというふうに分けて考える人が多くて、あまり数学的な理論をやっている人に出会えなかったんです。結局、1年でやめて、気象大学校に入り直しました」

今の経済学には、計量経済学という分野もあり、数学的に精緻な議論をしているはずなのだが、不運なことに荒木さんは、その時、よい出会いに恵まれなかった。しかし、おかげで、気象学の世界は、雲愛を語り、霜活の楽しさを伝える、ポップな雲研究者を得た。

「気象大学校では、やっぱり数学やりたいという意志があったんで、大気の挙動を記述する気象力学という分野があるんですけど、その専門の先生に1年の時からセミナーをしてもらって、ひたすら紙と鉛筆で数式展開をしてました。当時は、温帯低気圧の理論をやっていたんですけど、低気圧が発達する際の波動や擾乱(じょうらん)など、いろんな現実的な項を入れて、いかに美しく解けるかがんばってましたね。もちろん、数値シミュレーションみたいなこともするんですけど、でも、その時点では、現実がどうなっているかというよりも、数学的な関心の方が強かったと思います」

荒木さんが書いた一般書を読んだことがある人なら、この時点で「なるほど」と思うかもしれない。低気圧や雲の中で起こっていることについて、荒木さんの説明は背景に「数式愛」が透けて見えるほど詳細だ。「パーセルくん」という「空気の塊」のゆるキャラを登場させつつ、実際にそこで表現されているのは、本来は数式で表されているのであろう雲の中の物理過程だと言われれば、とても納得できる。

そもそも「パーセル」というのは、気象学ではある程度まとまった空気の塊をひとつのものとして扱う時の言葉だ。

では、荒木さんにとって、現在に至る転機はどこにあったのだろう。

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