質量は地球の40倍でほぼ大気なし 不思議な岩石惑星
地球から約730光年、銀河系のスケールで言えばさして遠くないところで、太陽に似た恒星の周りを回る不思議な惑星が見つかった。主星からの距離が非常に近く、大きくて、密度が高い。他にこのような惑星は、太陽系内はもちろん、はるか彼方の宇宙でも見つかっていない。
「TOI-849b」と名付けられたこの灼熱の惑星は、これまでに観測された岩石惑星の中で最も重く、地球40個分もの質量がある。これだけ質量が大きければ、木星のような巨大ガス惑星になるはずなのに、なぜかほとんど大気がない。現在の惑星形成理論では、この天体の形成過程を説明することはできない。
「TOI-849bのように重くて密度の高い惑星を作るのは非常に困難です。巨大ガス惑星になるのがふつうです」と、英ウォーリック大学の系外惑星研究者デイビッド・アームストロング氏はメールでの取材に答えた。氏らが今回の発見について報告した論文は、2020年7月1日付で学術誌『ネイチャー』に発表された。
「標準的な形成過程から外れた何かが起こったのです」。アームストロング氏らの考えはこうだ。この惑星は、木星を上回る巨大なガス惑星になるはずだったが、何らかの理由で大気のない、むき出しのコア(核)だけが残ったのではないか。
「このような天体は理論を前に進め、系外惑星や惑星科学の研究を非常に面白くしてくれます」と、論文の共著者であるスイス、チューリッヒ大学のラビット・ヘレド氏は話す。
「とてつもなく変な天体です!」と驚くのは、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校地球外惑星研究所のジョナサン・フォートニー所長だ。なお、氏は今回の研究には関わっていない。「とはいえ私には、それが何を物語っているのか、確かなことはわかりませんが」
変わり者の中の変わり者
銀河系の星々の中からは、過去10年間で数千個の惑星が見つかっている。そのほとんどが主星のすぐ近くを公転する木星型の巨大ガス惑星「ホット・ジュピター」か、地球よりも大きく海王星よりは小さい岩石惑星「スーパーアース」だった。しかしTOI-849bは、どちらにも当てはまらない。
この惑星は、米航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡「トランジット系外惑星探索衛星(TESS)」によって発見された。TESSは太陽系の近くにある明るい恒星20万個を観測している。恒星の前を惑星が横切ることがあれば、恒星からの光が一時的にわずかに暗くなるので、惑星の存在を知ることができる。
トランジット法と呼ばれるこの観測法により、TOI-849bが主星の周りを18時間で一周していることがわかった。主星からの距離が非常に近いので、惑星の表面温度は約1500度にもなる。
TESSによる観測から、この惑星の直径は地球の約3.4倍、海王星の0.85倍に相当することがわかった。大きさだけなら「ホット・ネプチューン」と呼べるが、後述するように質量は異なる。主星から非常に近い領域を公転する系外惑星は、ほとんどがホット・ジュピターか、それよりはるかに小さいスーパーアースばかりで、ホット・ネプチューンは見つかっていなかった。ホット・ネプチューンが見つからない領域という意味で「ホット・ネプチューン砂漠」と呼ばれている。
「この領域には、海王星程度の質量の惑星が本当に見つからないのです」とフォートニー氏は言う。
TOI-849bの重力による主星のふらつきを、チリのラ・シヤ天文台の「高精度視線速度系外惑星探査装置(HARPS)」を使って観測したところ、この惑星の質量は海王星の2倍以上あることが判明した。大きさを考慮すると、TOI-849bの密度が非常に高いことがわかる。水素とヘリウムからなる薄い大気の層があるかもしれないが、これだけの質量がある惑星がもつはずの大気の量に比べれば、はるかに少ない。
「この惑星は、金属とケイ酸塩と水、それに、ごくわずかな大気からできていると考えられます」とヘレド氏は言う。
遠い過去の遺物?
アームストロング氏らは、これらの奇妙な性質から、この天体は木星よりも巨大に成長するはずだったガス惑星のコアであると結論している。太陽系の巨大ガス惑星にも、岩石や珍しい物質からなる高密度のコアがある可能性が高いが、どのコアの質量もTOI-849bには遠く及ばないと考えられている。
「木星のコアの推定質量は、驚くほど不確実です」とアームストロング氏は言う。「最近の研究では、最大で地球の質量の約25倍だと示唆されています。TOI-849bは、それよりもさらに重いのです」
現在の惑星形成理論によると、惑星は、生まれたての恒星の周囲に渦巻くガスと塵(ちり)の円盤の中で、岩石や氷の小さな塊を核にして成長すると説明されている。地球のように、少量の物質を集めてできた小さな惑星もあれば、木星や土星のように、大量のガスを集めて厚い大気をまとった巨大惑星もある。
惑星が成長して地球の10倍程度の質量になると、「暴走的ガス捕獲」と呼ばれるプロセスが始まり、惑星の重力によって周囲の水素やヘリウムを急速に捕獲するようになるとアームストロング氏は説明する。地球の40倍もの質量のコアがあれば、途方もない量のガスをまとうはずだが、現在のTOI-849bの姿はそのようにはなっていない。
「TOI-849bのような惑星は非常に珍しいですが、現に存在しています。こうした惑星が、なぜ、どのように形成されたかを考えなければなりません」とヘレド氏は話す。
1つの可能性としては、TOI-849bが恒星の周りにあるガスを捕獲し尽くし、これ以上集められなかったことが考えられる。第2の可能性は、TOI-849bはかつて巨大惑星の核だったが、主星からの距離が近すぎるなどの理由で大気を失ってしまったというものだ。しかし、どのようにして数十億年の間に地球数百個分もの質量のガスを失ったのかは謎のままだ。
第3のシナリオは、この惑星が形成された当初に、同じくらいの大きさの天体に衝突されるなどの激変が起きて、岩石からなるコアが大きくなると同時に、大気がはぎ取られたというものだ。
「TOI-849bがホット・ネプチューン砂漠にあることは重大な手がかりになると思います」とアームストロング氏は述べる。「私自身は、なにか非常に珍しいことが起きたのではないかと考えています」
(文 NADIA DRAKE、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2020年7月3日付の記事を再構成]
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