スイーツ、すし、日本酒… 疫病退散アマビエ様グルメ
新型コロナウイルスの影響で、疫病退散のシンボルとされる妖怪「アマビエ」が注目を集めている。くちばしに長い髪、魚のウロコのような胴体に、3本足のアマビエ様。その姿を描いた絵を人に見せると疫病がおさまるという言い伝えから最近話題になり、グルメ界にもアマビエ様商品が続々と登場した。スイーツや日本酒、すしまでバラエティー豊かな話題のアマビエ商品を紹介する。
かわいらしい動物ドーナツで人気の「イクミママのどうぶつドーナツ!」では、3月15日から数量限定で「アマビエドーナツ」(3個入り、税込み1300円)を販売スタート。神奈川県元住吉にある本店のほか、オンライン通販や全国の催事場などでも販売している。ピンク色のイチゴチョコと紫イモのチョコを使った淡い彩りのドーナツで、そのかわいらしい見た目が女性客に大好評。累計で4000個も売れるヒット商品となっている。
同店のオーナーでドーナツパティシエの中尾育美さんは、「テレビでアマビエ様のイラストなどが話題になっていると知り、ドーナツで試作してSNS(交流サイト)に投稿したところ、『ぜひ販売してほしい』との声が多く寄せられ、商品化しました。新型コロナウイルスの暗い雰囲気ではなく、イクミママの商品らしく妖怪だけどかわいらしく、明るい気持ちになれるような色合いに工夫しました」と話す。
実は緊急事態宣言が発出されて以来、同店では催事販売や店頭販売での売り上げは激減していた。そんな中、「アマビエドーナツ」はオンライン通販で注文が殺到。「アマビエ様に商売も助けていただき、お客様を笑顔にすることもでき、本当にありがたいです」と中尾さんは感謝する。
バウムクーヘンにもアマビエ商品が登場。四角い形のバウムクーヘン生地をパンダなど様々なシルエットに器用に型抜きする「カタヌキヤ」では、アマビエ型にくりぬかれた「アマビエバウム」(税込み540円)を4月11日からオンライン通販や期間限定の催事店などで販売している。
経営するぶどうの木の多田恭平氏は、「コロナ禍の中、お客様が少しでも明るく前を向いていただけるように開発しました。最初は日ごろの感謝の気持ちを込めたプレゼントキャンペーンとして購入のお客様に無料で贈呈していましたが、『自分用にもギフト用にもまとめ買いしたい』とのお声をいただき、キャンペーンと並行して通販サイトで販売することになりました」と経緯を話す。
かわいらしい「アマビエバウム」は特に3本足の部分は細かく入り組んだ難しいカットになっている。その周りをそっと外しながら味わう。上面は甘いホワイトチョコ、下の茶色の生地はほろ苦い能登塩キャラメル味のバウムクーヘン。しっとりふわふわした食感で、コーヒーにもお茶にも合いそうな深い味わいだ。
首都圏などの催事の担当者からは「アマビエを販売してほしい」との要望が多いという。本社のある石川県内では自社の洋菓子8店でも販売しており、ここ3カ月でトータル1万個以上も販売した。店舗ではスタッフが「アマビエ商品を売らなくてもよい日が一日でも早く来ますように」と会話しながら客に商品を渡している。
横浜市の鶴見駅近くにある居酒屋「海鮮料理 魚春とと屋」では、「アマビエハッピー(8ッピー)丼」(税込み800円、ランチ時は味噌汁・小鉢・お新香付き)を提供している。夜の営業ができない外出自粛期間中の5月半ばから提供スタートした。
赤酢を使った酢飯にノリを散らし、その上にマグロ・白身・ホタテ・エビ・アナゴ・イクラ・卵・タコの8種の具材をのせた海鮮丼。その見た目が見事にアマビエ様になっており、特に地元の子供たちなどに大好評を博している。
「一番苦労したのはアマビエ様の胴体のウロコ部分です。バラちらし風に試作してみましたがうまくいかず、マグロと白身の紅白の切り身を交互に盛り付けることで、ウロコ感を出しました。小さめの専用切り身を作ってからのせています」と話すのは同店の女将・永井寛子さん。小学生のお子さん2人を育てているママでもあり、普段のキャラ弁作りで培った技が思わぬところで役に立ったと話す。
「567(コロナ)に勝つ!」の意味で、語呂合わせで7より上の8に注目。末広がりで縁起のいい数字でもあることから、8種のすしダネを使い、「ハッピー(8ッピー)丼」と命名。価格も800円にした。アマビエの目の部分は魚肉ソーセージのスライスの上にノリを乗せ、クチバシはカマボコで表現。3本足にはアナゴの切り身。食べておいしい具材のバランスにもこだわった。
1日15食限定としているが、外出自粛期間中はアマビエ丼目当てのテークアウトの客もいて、売り切れる日もあったという(現在はテークアウトは終了。店舗での提供のみ)。もともと男性客の多い店なのでボリュームを多くしており、「8種も海鮮類がのって800円とはコスパがいい」と反応が良い。
緊急事態宣言後、永井さんら鶴見区の商売仲間は「うちメシ応援プロジェクト」という小冊子を作ることで、地元の飲食店のテークアウトを促そうと団結している。第2弾の冊子では合計で66店もの店が参加した。
そんな中、永井さんを含む鶴見区内の地元の女将仲間がさらに結束。「食べることで人間は元気をいただく。私たちが提供できるのはお店のお料理だけじゃない。明るい話題や希望も伝えられるはず」(永井さん)と、3店がいっせいにアマビエメニューを提供することになった。永井さんのほかに、「重寿司」の女将は「アマビエ丼」を、もんじゃ・お好み焼き店「ささなか」の女将は「海鮮アマビエお好み焼き」を発案した。
「コロナにちなんで価格は567円にしました」とは、「ささなか」の女将・廣中由香理さん。この女将たちの取り組みに賛同した「うちメシ応援プロジェクト」仲間でもある米穀店「土屋米穀」の2代目・土屋信太郎氏は、画伯役をかって出て、アマビエのイラストを描いて3店に提供した。
永井さんは「コロナにより鶴見地区が結束できたのは良かった。いま人のつながりの大切さを再認識している人が多いのではないでしょうか」と話す。飲食店として客に対して何ができるか、改めて店の価値・機能を考えさせられる良い機会になっているようだ。
新型コロナの影響で日本酒業界も困難な状況が続くが、出羽桜酒造(山形県天童市)では「エールSAKEプロジェクト」を立ち上げた。その第2弾が6月3日から発売しているアマビエ様ラベルの「特別純米酒」(720ミリリットル・税別1400円・出羽桜酒造)だ。
かわいらしくインパクトのあるラベルの絵は、雑誌「Discover Japan」の表紙を飾ったこともある山形県出身の画家、佐藤真生氏の作品。同社併設の出羽桜美術館で佐藤氏の作品を所蔵している縁から、今回特別にラベルに使わせてもらうことになったという。地元、天童市で織田信長公を奉っている建勲(たけいさお)神社で実際に祈祷(きとう)を受けた酒を出荷しているので、飲んだ後は玄関などにボトルを飾っておけばご利益があるかもしれない。
社長の仲野益美氏は、「疫病退散、そして全世界のコロナ終息を願う祈願酒として発売しました。全国から非常に多くの反響をいただいているところで、予定の出荷量を大きく超えるご注文をちょうだいし、追加で製品化しているところです。香港・台湾・韓国にも輸出されることが決まりました」と説明する。
一方、福井県の吉田酒造では4月末から「疫病退散 白龍アマビエ純米大吟醸」(720ミリリットル・税別1900円、300ミリリットル・税別800円)を販売。アマビエ様のカラフルなウロコが美しいラベルだ。瓶からはがしやすい和紙でできているので、酒を飲み終わった後にラベルをお守りとして身につけたり、飾ったりしておける点が喜ばれている。ちなみに地元、福井の越前和紙を使用している。
吉田酒造営業部部長の吉田祥子さんは、「日ごろから仲良くさせていただいている徳島県の本家松浦酒造場様よりアマビエ様のイラストをいただき、使わせていただきました。蔵の公式Instagramでアマビエ様ラベルのボトルを持った画像を投稿したところ、いいね!を500近くいただき、これまでで一番見られている写真となりました」と反響ぶりを話す。
愛らしいアマビエ様のラベルのおかげで、普段はあまり日本酒を買わない客も「ジャケ買い」で購入し、さまざまなメディアからも取り上げられ話題になっている。家族や友人へのプレゼント目的で数本まとめて購入する客がとても多いという。「アマビエ様効果で売り上げが伸びているので、私どもにとっては本当に神様です」と吉田さん。
様々なアマビエ商品を取材してみるとその表現法はいろいろで、見比べるだけでも楽しく、明るくかわいらしいものが多かった。出羽桜酒造の仲野氏は「朝の来ない夜はなく、雲の上はいつも晴れ。ともに頑張っていきましょう」と力強く世の中に呼びかけていたが、どの商品にも「新型コロナの苦境に合っても前を向いて進もう!心を一つにして、みんなで乗り越えよう!」という元気なメッセージが込められていた。
(フードライター 古滝直実)
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