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番組では、僕がホストを務めて、WOWOWのプロデューサーでトニー賞授賞式の中継に携わられている金山麻衣子さん、映画・演劇評論家の萩尾瞳さん、俳優・演出家の今井朋彦さんをゲストに迎えて、トニー賞をとっかかりに、日本の演劇界にふさわしい賞について話をしました。全員リモートで、台本はほとんどない1時間20分ほどのフリートークでした。いろいろな立場からの意見をうかがえて、すごく面白かったし勉強になりました。

すでに素晴らしい演劇賞がたくさんあるなかで、どうすみ分けるのか。役者同士で選出しあったり、演出家やスタッフが独自の視点で選ぶのも面白いのでは。観客やファンの声を反映させる仕組みも取り入れたい。派手だったり、目を引いたり、社会とつながったりといった、話題を広げていく方向と同時に、たくさんの人が見ていなかったとしても、良質な作品や人たちに光を当てる、きちんとした評価も賞の大事な役目。東京以外の町を拠点にして、町ぐるみで盛り上げるようなやり方もあるのでは……。

僕は漠然と、日本にもトニー賞みたいなものがあったらいいと思っていたのですが、具体的に意見を交換しているなかで、課題や道すじもうっすら見えてきたように思います。もちろん、これですぐにどうこうという話ではないですが、演劇界を知ってもらったり、新しい賞のあり方を考えたりするきっかけになればうれしいです。

みんなで助け合いながら、少しずつ前へ

番組の後半では、「勝手に演劇賞」を16部門で発表しました。こちらは僕の発案ではなく、みらい基金のスタッフの方に企画していただいたもの。投票人数3609人、投票総数3万5612票とたくさんの方に投票いただき、ありがとうございます。結果として、言い出しっぺの僕に票が集まってしまい、申し訳ない気持ちなのですが、そこはトライアルということで大目に見ていただければ。

みらい基金のほうは先日、5月末までに集まった約3100万円を原資に、個人や団体への第1回の助成が決まったとの報告がありました。個人の応募が1177件に対して助成は75件、団体の応募は193件に対して助成が9件でした。想定よりも多くの応募があったことで、今後の活動への資金ニーズが大きいことがあらためて分かり、迅速な助成を優先したために残念ながら採択率が低くなったとのこと。支援を必要とされている方に対して、助成が大きく足りていない状況なので、さらなる寄付金の積み上げが必要です。

演劇界はようやく公演が再開し始めましたが、新型コロナ以前の状況に戻るにはまだまだ時間がかかりそう。その間、みんなで助け合いながら、少しずつでも前に進んでいきたいですね。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第74回は2020年8月1日(土)の予定です。


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