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みんなでパチリ、雪結晶プロジェクト 雲の科学に活用

気象庁 気象研究所 荒木健太郎(3)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物に専門分野の魅力などを聞く人気コラムです。今回転載するのは、アニメ映画「天気の子」(2019年公開)の気象監修を務めた荒木健太郎さんが「雲の科学」を語るシリーズ。夏にはちょっと涼しい雪の結晶の話題から、危険な集中豪雨をもたらす積乱雲の予測まで、美しい画像とともに解説してくれます。

◇  ◇  ◇

それでは、この「市民科学」の成果は今のところどうなのだろう。

2016-17年の冬が初実施なので、まだ1シーズン分のデータしかないのだが、それでも7000件以上。それらを分析することでどんなことが分かってくるだろうか。

「まず最初に、2016年11月の降雪についても結果をまとめた論文が3月に出ます。これ、覚えてらっしゃるかと思いますが、観測史上一番早い都心の積雪で、メディアも数日前から雪の可能性をとりあげて社会的な関心も高かったものです。おかげで、雪の結晶の観察を呼びかけると多くの人たちが応じてくださいました」

1875年に統計開始以来、東京ではじめての11月の降雪として大いに話題になったし、実際に「予報が当たった」事例でもあって、印象が深い。

「この時は、南岸低気圧が発達初期の段階での雪だったんです。普通、温帯低気圧を伴う雪は、上空のかなり高いところで雲が成長するので、低温型結晶という、たとえば『交差角板』と呼ばれるような結晶が多いといわれていたんです。アメリカ東海岸での研究ですけど、低気圧の北側の中心から離れた位置では低温型結晶が卓越すると。でも、16年11月の関東の積雪では、朝8時から9時の時点で、そういうものが全然なかったんですね。むしろ、比較的温かくてかつ湿った環境で成長する樹枝状結晶などが多かったんです」

雪の結晶の分類についは、2013年に日本雪氷学会が考案した「グローバル分類」を使っている。雪の結晶ができる時の温度や、空気中の水蒸気量によってどのような形になるかは「小林ダイヤグラム」というものがある。

小林ダイヤグラムの横軸は温度で、16年11月の雪は、朝の段階で樹枝状結晶という、雪の成長環境としては比較的温かいマイナス10度からマイナス20度くらいの湿った空気の中で成長したものだと分かった。つまり、地上に落ちてきた雪の形を見るだけで、雪の結晶が成長した雲の中の気温や水蒸気量が分かるのである。

それだけではない。時間経過まで明らかになる。

「その日、お昼、11時から12時くらいになってきますと、関東南部を中心に別のタイプの結晶、針状結晶などがでてきました。これは、さらに温度が高いマイナス4度からマイナス10度で、やはり湿った環境でできるものです。それと、雲粒が凍って付着した結晶も見られるようになります。雪の結晶が成長する雲の温度が上がって、かつ上空に、過冷却の水雲が存在するようになったということです」

針状の結晶は、雪の結晶の成長環境としてはかなり高温多湿(と書くと暑そうだが、それでも当然氷点下)なところで成長するもの。そして、雪の結晶にもこもこした雲粒が凍ってくっついているのは、過冷却の水がある環境を落ちてきたから。雪の結晶を見るだけで、雲の中の様子がかなり見えてきた! 本当に「天からの手紙」とはよく言ったものだ。それも空間的な分布、そして時間的な変化を追えるとなるとかなり強力な観測手段になる。

結局、この時の雪は、かなり温かく湿った環境で結晶が成長していたことが特徴だと言えそうだ。実は2016年から17年にかけての関東の雪は、最初の11月のものだけでなく、この傾向が強かった。それが関東の雪の「法則」なのだろうか。アメリカ東海岸では、むしろ低温型結晶が卓越することになっていたので、こちらでは別のことが起きているのかと疑問が湧いてくる。

「この冬は典型的な南岸低気圧による雪が少なくて、いずれも前線を伴ってないような低気圧の雪が多かったんですね。普通の低気圧に比べて背が低くて、比較的温かい雲から降ってきた。そういう事例だったわけです。今年もまたやってみて、典型的な南岸低気圧の前線に伴う降雪がみられた時に、アメリカ東海岸でのように低温型の結晶になるのか、興味深いところですね」

たまたま初年の試みは「典型的」ではない降雪を観測したわけだが、この市民参加型研究が「使える」ことははっきりした。そして、満を持して臨んだ2018年最初の関東での降雪では、「#関東雪結晶」がTwitterのトレンド1位になるほど、この試みが注目を集めた。

ぼくも参加して、1時間ごとにスマホで写真を撮ったのだが、降り始めはぐずぐずの状態で、すぐに解けてしまう不定形ものが多かったのだが、すぐに塊状になり、やがて見栄えのする「六花」が出てきて、同時に針状のものも見られた。そして、降り止む前には、結晶にたくさんのつぶつぶつがくっついた「雲粒付着結晶」が多く見られるようになっていった。

刻一刻と、雪の結晶が変わっていくのは、興奮させられる体験だった。荒木さんは、届けられた多くの写真をこれから解析することになる。はたして、去年からの「宿題」は解決するのだろうか。あるいは、謎がさらに深まるのだろうか。興味深い。また、ぼくが撮った写真も役に立つとうれしいなと、ドキドキする。

さて、こういったことを今後も続けていくと、どんなことがさらに分かっていくのだろか。

「この雪の結晶の観測データに加えて、既存のレーダーだったり、衛星のデータだったり、いろんなデータを複合的に組み合わせて、実態の解明をするというのがまず最初だと思います。その上で、予測の精度向上という意味では、モデルを精緻化して、雨か雪かをどのくらい予測できるのか、雪の性質も含めて予測できるのかを検証するという方向です」

雪の結晶のデータが地理的な広がりも、時間的な連なりも持った観測として使えるなら、既存のリモートセンシングなどと組み合わせて、より精度の高い予測への突破口が開けるかもしれない。「低気圧レベル」の大気現象の中で最も予測し難いとも言われる「関東の雪」が、「普通の天気予報」になる日が近づく。

一方で、予報ではなくリアルタイムでの情報提供の可能性も見えている。

「今、レーダーが進歩しています。羽田と成田などの空港のレーダーが二重偏波レーダーというものになりました。今後、他のものもそうなっていくと思います。これは、縦方向に振動する電波と横方向に振動する電波(それぞれ、振動の方向が偏った偏波)を同時に送受信するタイプで、これを使うと、雨や雪が降っている時、その強さだけではなく、ある程度、形や種類まで判別できるんです。そのリファレンスデータとして、雪の結晶のデータが使えるんですね。二重偏波レーダーと雪の結晶のデータを合わせると、観測点がないところでも、雨なのか雪なのかみぞれなのか、もしくは雪だとしてもどんな形の雪なのか。そういう情報が分かる。それで、リアルタイムでどこで何が降っているかを情報提供できるようになるのは、かなり防災上重要だと思うんですね」

このように市民科学としての「#関東雪結晶 プロジェクト」は、見事に市民に還元されるというシナリオでもある。

荒木さんは、さらに、こんなふうに続けた。

「雪結晶のミクロな世界をスマホで手軽に覗けるということがわかれば、雪が降るのが待ち遠しくなると思うんです。すると、天気予報や気象情報をこれまでよりも入念にチェックするようになる。楽しむために気象に関する情報を自分から求めるようになるわけです。いつの間にか気象に関する防災情報を上手く活用することができるようになって、自分自身の身を守ることにも繋がりますよね」

おーっ、と思った。

楽しみながら知識を深め、知らず知らずに防災につながる。そういう話なのである!

筋道が見えたところで満足して、荒木さんの別の研究テーマに移ろうとしたところ、「ちょっと、もう一点」と補足された。

「『霜活』について話しておかないと」と笑う。

なるほどそうだった。荒木さんは、冬、毎日のようにスマホで霜の結晶の写真を撮影して、ネットに上げている。それがまた美しい!

実はこれは、雪の結晶の観測と密接につながっている。

「関東で雪が降る機会って、やっぱりそう多くないんで、なかなか雪の結晶の観測ができないんですよ。だから、100円ショップでスマホ用のマクロレンズを買っても、使わずに過ごしてしまう方が多いので。そこで、霜活です。霜の結晶って、サイズ的に雪の結晶と同じぐらいなので、被写体として非常にいいんです。やっぱり、小さなものを撮るには多少、技術がいるし、いきなりだとなかなか難しいので」

つまり、「霜活」とは、雪の結晶の観測のための「自主練」だったのだ。

しかし、自主練は自主練だとしても、独自の美の世界を確立しているような気もする。朝日の中できらきら光る霜結晶は、輝かしくも清々しい。Twitter上で「#霜活」のハッシュタグで検索すると、多くの市民が美しい霜結晶の写真をアップしているのを眺めることができる。

「とがった葉っぱの先っちょに、植物の生命活動でできる水滴が凍結してとてもおもしろいんです。表面に模様ができたりして、自然の造形美というか。これ、朝陽がさして少し解けると、中で気泡が動くのが見えて、その気泡の部分で偏光して、虹色に見えるんですよ。解けゆくなかでのはかない輝きなので、朝陽がさして輝くわずかな時間をシンデレラタイムと呼んでいます(笑)」

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2018年2月に公開された記事を転載)

荒木健太郎(あらき けんたろう)
1984年、茨城県生まれ。雲研究者。気象庁気象研究所台風・災害気象研究部第二研究室研究官。「#関東雪結晶 プロジェクト」主宰。気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・メソ気象学。防災・減災に貢献することを目指し、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組みと雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)など、監修に映画『天気の子』などがある。ツイッターアカウント@arakencloudで雲の写真や情報を日々発信中。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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