「天からの手紙」を解読 雨か雪か、雲の科学で考える気象庁 気象研究所 荒木健太郎(2)

2014年2月、この年、2回あった関東地方の大雪で、荒木さんは、降ってきた雪の結晶をスマートフォンで撮影し、研究会での発表の中でその画像を使った。参加した研究者仲間は、それを見て驚いたという。

「研究者の間でも、スマホで研究利用できる雪結晶を撮れるという認識がなかったんです。それも100円ショップのマクロレンズを使えばとても鮮明な写真が撮れる。で、もともと市民が参加する科学的な取り組みを応用した雪の研究をやろうと計画していたので、それなら雪の結晶の画像をテーマにしようということで始めたんですよ」

スマートフォンのレンズに100円ショップのマクロレンズを取り付けて荒木さんが撮影した雪の結晶「樹枝六花(じゅしろっか)」(気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」のサイトより)

これが「#関東雪結晶 プロジェクト」の出発点だ。

そして、2016年から17年にかけての冬、荒木さんはTwitterで呼びかけて、関東甲信で雪が降った時に結晶をスマホで撮影して、「#関東雪結晶」というハッシュタグで投稿するように呼びかけた(プライバシーに配慮して、メールも可)。

その結果、1万件を超える観測データの収集につながった。

「ソーシャル・ネットワーキング・サービスを使って、関東甲信の人たちに雪が降ったら結晶の写真を撮って送ってくださいとお願いしました。すると、各地から様々な雪の結晶が送られてきて、最終的には1万枚以上の画像が集まったんです。そのうち7000枚以上が解析可能なクオリティでした。こうやってたくさんの市民がネットで参加して雪結晶観測を行う、世界で最初の例になりました」

荒木さんが撮影した針状(しんじょう)結晶による雪片(気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」のサイトより)

気象観測の専用機材がなくとも、スマホなどで雪の結晶を撮影できる時代になったことと、それを簡単に送ることができるネット環境が整ったことなどが大きい。今やほとんどの人がスマホを持っていると言っても過言ではないのだから。

アマチュアが収集したデータとはいえ、写真にしっかり写っていれば、添付してもらった位置情報と併せて、充分なデータになる。プロの研究者がグループで観測をしたとしても、これだけの観測点で、同じ降雪を同時かつ、時間経過も分かる形で観察するというのはまずできない話で、「#関東雪結晶」は、きわだって稠密な観測点を持つ一大観測プロジェクトへと大きく羽ばたいたのだった。

マクロレンズを取り付けたうえで、カメラのズームでもいっぱいまで拡大するのがコツ。だが、慣れがいるのも確かなので、練習方法については次回に!

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2018年2月に公開された記事を転載)

荒木健太郎(あらき けんたろう)
1984年、茨城県生まれ。雲研究者。気象庁気象研究所台風・災害気象研究部第二研究室研究官。「#関東雪結晶 プロジェクト」主宰。気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・メソ気象学。防災・減災に貢献することを目指し、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組みと雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)など、監修に映画『天気の子』などがある。ツイッターアカウント@arakencloudで雲の写真や情報を日々発信中。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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