思わぬところにリスクも トイレとウイルス感染の関係

日経ナショナル ジオグラフィック社

結局、新型コロナウイルスの感染者が使ったあとのトイレに入るとどうなるのか? それは、ウイルスがヒトの便の中で感染力を保つのかという点にかかっているが、これに関してはまだ決着がついておらず、盛んに調査が進められている。

12年に感染が広まった別のコロナウイルス感染症、中東呼吸器症候群(MERS)の場合は、ウイルスがヒトの消化管の中でも感染力を保つケースがあることが研究で示されている。ということは、仲間である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の場合も同じかもしれない。

インフルエンザウイルスやコロナウイルスは、薄い膜で包まれていることから「エンベロープ型ウイルス」と呼ばれる。食中毒の原因になるノロウイルスと異なり、エンベロープ型ウイルスは酸や界面活性剤によって簡単に破壊することができる。つまり、胃液や胆汁などの成分で壊れやすいはずなのだ。では、なぜ感染力を保てるのだろうか?

インフルエンザウイルスの研究に基づく仮説の1つは、感染者の唾液や痰、鼻汁などの粘液が、消化管を移動するウイルスを守った場合、ウイルスは感染力を保つ可能性があるというものだ。ならば次は、ウイルスがどのくらいの時間、便中で感染力を保つのかを知りたくなる。米ライス大学の分子疫学者E・スーザン・アミリアン氏が言うには、これもまた、さらなる研究が必要な分野だ。

「便を介した感染がありうるとしても、主な感染経路であるとは考えづらいです」。アミリアン氏はメールでの取材にそう答える。CDCが糞口感染のリスク評価で引用した論文よると、感染者の便からは新型コロナウイルスの壊れたゲノムの断片しか見つからなかったという。つまり、ウイルスは消化管内にいたものの、すでに破壊され、新たに感染を引き起こすことはできない状態だったということだ。

とはいえ、こうしたゲノム断片は、新型コロナウイルス感染症患者の便からかなりの割合で検出される。4月に発表された別の論文では、42人の患者のうち過半数の人の便から新型コロナウイルスの痕跡が確認されたという。また、5月18日にCDCが発表したところでは、少数の患者の便から感染力のある新型コロナウイルスが見つかっている。

さらに、過去の研究では、02~03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際には、糞口感染が起こっていた可能性が示唆されている。SARSもまた、コロナウイルス感染症の一つだ。03年に香港のアパートで321人ものクラスター(感染者集団)が発生したのは、便の微粒子が空気中を舞ったためではないかと考えられた。その後の調査で、換気の悪さや、隣人同士の接触、エレベーターや階段等の共用部も、感染拡大に寄与したことがわかった。

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