思わぬところにリスクも トイレとウイルス感染の関係

日経ナショナル ジオグラフィック社

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ドイツ、ベルリンの「ホテル・アドロン・ケンピンスキー」にて、従業員が客室のトイレにマスクを置く。2020年5月26日、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)のさなか、制限が緩和され、観光客向けの営業が再開された翌日のこと(PHOTOGRAPH BY TOBIAS SCHWARZ, AFP VIA GETTY IMAGES)

お酒の席やディナー、あるいは長距離ドライブなどの間、一度もトイレへ行かずに済む人は少ないだろう。しかし、飲食店や公共施設などが次々と営業を再開しつつある昨今、新たな疑問が湧き上がっている。公共トイレの利用は、新型コロナウイルスの感染リスクを高めるのだろうか?

そうした心配を抱かせる研究結果が今週、中国の研究者たちによって発表された。2020年6月16日付で学術誌「Physics of Fluids」に掲載された論文では、トイレの水を流すときにできる水の渦によって、新型コロナウイルスを含む飛沫の雲が発生し、空気中に放たれることが示唆されている。

遺伝子検査を利用したこれまでの研究で、便のサンプルから新型コロナウイルスが検出されており、少なくとも1つの調査では、便中のウイルスが感染力を持つ可能性が示された。

新型コロナウイルスに感染した人が用を足すと、ウイルスはひとまず便器の中に収まる。しかし、その後「水を流すときにウイルスが巻き上げられ、人から人へ感染が広がる可能性があります」と、今回の論文の共著者で中国、揚州大学の物理学者、ワン・ジシャン氏は話す。

トイレから発生する飛沫の問題は、他の感染症との関連で過去数十年間、研究されてきた。だが、新型コロナウイルスを含め、病原体の拡散に実際どれほど関与しているかについては、いまだに多くの疑問が残されている。世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)はどちらも、新型コロナウイルスが「糞口感染」つまり便として排出されたウイルスを誤って摂取することによって感染する可能性は低いとしている。

しかし専門家たちは、こうした不確実な点があってもなお、公共トイレの利用にあたっては注意すべきことがあると警鐘を鳴らす。

トイレのリスクはどれくらい?

今回の研究でワン氏のチームは、便器中で水の乱流が作り出す極小の飛沫(エアロゾル=空気中を漂う微粒子)が、空気中に最大で床から1メートル強の高さまで放出されることを、コンピューターモデルを使って示した。便器の中に勢いよく流れ込んだ水が、反対側の壁に強く当たって渦ができる。この渦が、便器中の水のみならず空気までをも押し上げる。

ワン氏らのシミュレーションによれば、こうして形成されるエアロゾルは1分余り空気中に残ることがわかった。また、トイレが頻繁に使われるほど、水が流れる勢いは強くなるという。

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