「この虫でだしを取ったら、コオロギよりおいしいかも」(関根さん)というほど魅力的な味わいのザザ虫を使った料理

長野県伊那地方の天竜川流域で伝統的に食べられてきたザザ虫のつくだ煮を、旬(試食時)のソラマメやグリーンピース、ミントのオイルなどと合わせ、「清流を思わせるさわやかさをイメージした」(白鳥さん)という一皿では、ザザ虫本来の味わいがわかるようつくだ煮の味付けは控えめ。「この虫はきれいな川の川底にいるトビゲラなどの幼虫ですが、ほんのり磯の風味がして貝のようなうまみがある。自分が一番気に入っている虫の一つです」とは関根さん。「川底にいる色々な虫の総称なので、実はそれぞれ味が違うんです。初めて食べたときは、虫ってこんなに面白い味がするんだと思いました」と続ける。

チーム全員が食材やその生息地について生き生きと語ることで、皿の上だけではなく虫たちが生活する場の風景が目の前に広がる。外来生物のフェモラータオオモモブトハムシの幼虫の料理では、この幼虫の住処であった穴の開いた枝が皿の上に飾り付けられていた。料理を食べながら、食材となる生物の生態まで垣間見られるとは、昆虫ならではの楽しさだ。

樹液を吸うセミの気持ちを味わえる特注のドリンク容器。4つある穴にストローを差してセミのごとくドリンクを「吸う」が、木に樹液を吸いにくい場所があるように、この容器にもドリンクを吸えない「ハズレ」の穴が。「アタリ」の2カ所の穴から吸えるのは、桜のシロップと合わせたニンジンジュースや、ドクダミを使ったコンブ茶

同店は新型コロナウイルスの影響から大幅に開店がずれ込んだ。そのため、チームは4月末から、当初予定していなかったコオロギラーメンのオンライン販売を始めた。「お店で食べていただくクオリティーよりはどうしても落ちてしまうので、最初はラーメンを通販で売るのはいやだった」と篠原さんは明かすが、予想をはるかに超える注文が入る。

初回の販売では「100食出れば」と考えていたところ、300食ものオーダーが入ったのだ。通販を始めたことで、「東京だけでなく、札幌から沖縄まで、全国各地のお客様に届けられるようになったのがうれしい」と山口さんは言う。コロナ禍で通販を強いられたことで、かえって全国に広めることができたのだ。今では、篠原さんも通販は広く自分たちの活動を知ってもらえるよい手段だと考えている。

オンラインでは、各種昆虫のつくだ煮も販売。エビやナッツの香りを持つカイコのサナギにピスタチオとカルダモンを合わせたり(左下)、イナゴに青トウガラシとシソを合わせたり(右下)と個性的な内容。一番上はショウガを使い特有のうまみを際立たせたコオロギのつくだ煮

「僕たちにとってレストランは最終目的ではなくあくまでも一事業。これからはワークショップや養蚕農家ツアーのようなイベントを開催するなど、レストランを拠点としながら食の可能性を広げる“学校”のような形で活動を広げたい」と篠原さんは話す。客からはおいしかったとともに「楽しかった」という声が多く聞かれる「ANTCICADA」。わくわくする食材に出合うワンダーランドの誕生だ。

(フリーライター メレンダ千春)

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