検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

洋ナシの香り、濃厚な味わい ビールもそろえた昆虫食

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

東京・日本橋馬喰町の路地にたたずむ小さなビルに6月、昆虫を食材として用いるレストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」がオープンした。昆虫は近年、海外のミシュラン星つき店のシェフも、その味わいにひかれ料理に用いる"新しい"食材として注目されている。

同店が使うのは、えりすぐりの昆虫だ。雑食であるためエサや育つ環境で味が変わるという濃厚なうまみを持つコオロギや、シェフらが自ら三重県まで赴き採集した杏仁のような香りを放つ外来生物の幼虫、まゆから取り出して生きたまま冷凍し、臭みのないフレッシュな状態で届くカイコのサナギ――。驚きの食材の数々は、金曜、土曜限定のコース料理や、日曜日に終日提供されるコオロギラーメンとなり客を楽しませる。

同店を運営するのは、レストランと同名のANTCICADAという5人のチームだ。大手銀行を2カ月で辞め料理の道に飛び込んだ関根賢人さん、東京農業大学大学院を修了した醸造と発酵の専門家・山口歩夢さん、やはり東京農業大学で学び漁業、農業、林業の現場を体験してきた豊永裕美さん、ミシュラン2つ星店「レフェルヴェソンス」で6年勤務後、デンマークのミシュラン星つき店「レレ」「コックス」などで修業したシェフの白鳥翔太さん。そして、こうした個性的な面々を昆虫食の世界に引き込んだチーム代表の篠原祐太さんが、唯一無二の食の空間を作り上げる。みな20代の若者だ。

篠原さんは幼い頃から、身近な生物として虫に親しんできた。大好きな虫だから、ごく自然に「どんな味がするのか」と思うようになったのだろう。4歳頃から好んで虫を食べるようになったという。しかし、東京育ちの彼の周囲に昆虫食への理解はなかった。だから、カミングアウトしたのは、大学に入ってから。その頃、国際連合食糧農業機関(FAO)が近い将来予想される食料危機のために、タンパク質が豊富で栄養価が高く、飼育の環境負荷が少ない昆虫を重要な食材と位置付ける報告書を発表したからだ。「最初はやはり気持ち悪いという人が多かったけれど、一部の人が興味を持ってくれ虫を使った料理を食べてもらっていた。それが今の活動の原点です」と篠原さんは振り返る。

素材本来の味を生かすために、少しあぶったり、ゆでたりと当時の調理法はシンプル。ただし、虫ごとに調理の仕方は少しずつ変えていたそうだ。「例えば、水分が多い幼虫は揚げると油の味に完全に飲まれて風味が消えてしまう。だからゆでて、素材本来の味を封じ込めるんです。ごまかしが効かないので繊細な風味をまるごと味わえる」。昆虫にそんなに奥深い味わいの世界があったのかと、目を見開かされる。

「ANTCICADA」の名物料理のコオロギラーメンは、もともと、篠原さんが学生時代よく通っていたラーメン店と共同開発したものだ。2015年からイベントなどで販売し評判を呼んできた。だしに用いるのは、強いうまみと若干のえぐみを持ったフタホシコオロギと、上品できれいな味わいのヨーロッパイエコオロギの2種類。常に改良を重ね、現在は初期のだしには入っていなかった「コオロギ醤油(しょうゆ)」を使用する。コオロギ醤油とは、ダイズの代わりにコオロギに麹(こうじ)菌を生やしつくった発酵調味料だ。ラーメンはコースにも組み込まれているが、単品で提供する際とはだしの内容を変えているというこだわりようである。

ラーメンのだしは、コースの最初に登場するスナックにも用いられている。だしに片栗粉などを合わせ乾燥させたものを揚げたコオロギチップスだ。発酵したマッシュルームや薫製トウガラシのパウダーをふりかけていて、深い森を思わせる香りが立ち上る。さっくりと軽い食感で、コオロギ特有のエビに似た味わいやたっぷりとしたうま味にやみつきになりそうだ。

同店では、各料理に合わせたドリンクのペアリングコース(アルコール、ノンアルコール両方のコースがある)も用意しているが、チップスに合わせる酒は、「コオロギビール」。岩手県の遠野醸造と共同開発したビールで、コオロギを麦汁と共に煮沸して造った黒ビールである。さらっとした飲み口だが、苦みとコク、うまみのバランスがよく、チップスによく合う。

ペアリングするドリンクの中には、タガメを使ったジンやノンアルコールドリンクも。そのいかつい外見からは想像できないが、タガメは華やかで果汁たっぷりの洋ナシを想起させる香りがするのだ。これはオスのフェロモンの香りで、「香りが強いのは精力が強いオスを使っているから。今が"旬"なんです」との篠原さんの説明に、食欲だけでなく虫の世界の面白さにも引き込まれる。なお、タガメは、これを食材として一般に用いるタイからの輸入品を使っている。

ちなみに、タガメジンと合わせていた料理は、アユのコンフィをゴーヤに詰め揚げたキヌアをまぶした、苦みとさわやかさが複雑に合わさった一皿だった。「タガメジンは、ウニにも合うんですよ」と白鳥さんはこれも意外な組み合わせを教えてくれる。

長野県伊那地方の天竜川流域で伝統的に食べられてきたザザ虫のつくだ煮を、旬(試食時)のソラマメやグリーンピース、ミントのオイルなどと合わせ、「清流を思わせるさわやかさをイメージした」(白鳥さん)という一皿では、ザザ虫本来の味わいがわかるようつくだ煮の味付けは控えめ。「この虫はきれいな川の川底にいるトビゲラなどの幼虫ですが、ほんのり磯の風味がして貝のようなうまみがある。自分が一番気に入っている虫の一つです」とは関根さん。「川底にいる色々な虫の総称なので、実はそれぞれ味が違うんです。初めて食べたときは、虫ってこんなに面白い味がするんだと思いました」と続ける。

チーム全員が食材やその生息地について生き生きと語ることで、皿の上だけではなく虫たちが生活する場の風景が目の前に広がる。外来生物のフェモラータオオモモブトハムシの幼虫の料理では、この幼虫の住処であった穴の開いた枝が皿の上に飾り付けられていた。料理を食べながら、食材となる生物の生態まで垣間見られるとは、昆虫ならではの楽しさだ。

同店は新型コロナウイルスの影響から大幅に開店がずれ込んだ。そのため、チームは4月末から、当初予定していなかったコオロギラーメンのオンライン販売を始めた。「お店で食べていただくクオリティーよりはどうしても落ちてしまうので、最初はラーメンを通販で売るのはいやだった」と篠原さんは明かすが、予想をはるかに超える注文が入る。

初回の販売では「100食出れば」と考えていたところ、300食ものオーダーが入ったのだ。通販を始めたことで、「東京だけでなく、札幌から沖縄まで、全国各地のお客様に届けられるようになったのがうれしい」と山口さんは言う。コロナ禍で通販を強いられたことで、かえって全国に広めることができたのだ。今では、篠原さんも通販は広く自分たちの活動を知ってもらえるよい手段だと考えている。

「僕たちにとってレストランは最終目的ではなくあくまでも一事業。これからはワークショップや養蚕農家ツアーのようなイベントを開催するなど、レストランを拠点としながら食の可能性を広げる"学校"のような形で活動を広げたい」と篠原さんは話す。客からはおいしかったとともに「楽しかった」という声が多く聞かれる「ANTCICADA」。わくわくする食材に出合うワンダーランドの誕生だ。

(フリーライター メレンダ千春)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_