日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/7/31
アシナシイモリの一種、「Caecilia pachynema」の標本。口の中には3列の歯がある(PHOTOGRAPH BY ALEJANDRO ARTEAGA)

穴掘りの名人

科学者たちは1935年の時点で、「Hypogeophis rostratus」というアシナシイモリの歯のあたりに分泌腺があることを記録している。しかし、彼らはそれを、よくある粘液の分泌腺と考えた。

ジャレージ氏によれば、例えばアシナシイモリの頭にある分泌腺は、地中を移動しやすくする潤滑液を分泌する。一方、尾には防御用の毒を出す分泌腺があり、捕食者が地中を追ってくることを阻んでいると考えられている。

調査を率いた、同じくブタンタン研究所の進化生物学者ペドロ・ルイズ・マイリョ=フォンタナ氏らは、本研究のために2匹のアシナシイモリ(Siphonops annulatus)の成体から唾液のサンプルを採取し、どのような化学物質が含まれるかを分析したところ、「ホスホリパーゼA2」という酵素群が含まれていた。スズメバチやサソリ、ヘビなど、攻撃用の毒を持つ生物に広く見られるものだ。

論文によれば、調査チームは4匹について分泌腺の物理的構造を調べ、そのうち2匹は電子顕微鏡で観察した。

マイリョ=フォンタナ氏は、もっと多くの個体で調査したかったものの、アシナシイモリを見つけることは容易ではないのだと話す。穴を掘り、潜ることに長けたアシナシイモリは、1匹捕まえるのに20時間かかることもあるそうだ。

なぜ唾液に毒?

サンプルをさらに入手することができれば、生化学や薬理学の研究者と協力して、分泌腺の真の機能を調査したいとマイリョ=フォンタナ氏は望んでいる。それでも氏は現時点で、アシナシイモリの唾液は、巨大なミミズを捕食する際に相手を無力化したり、消化したりするのに役立っているはずだと考えている。

生物の毒と聞くと、多くの人がハチの針やヘビの牙を思い浮かべるが、マイリョ=フォンタナ氏によれば、唾液から進化した毒は多いのだという。口内の液体は当初、潤滑剤の役割を果たしたのかもしれない。それが消化を助けるようになり、最終的には他の生物に危害を加える機能も獲得した。唾液に毒がある生物には、ヘビやコモドオオトカゲのほか、哺乳類ではトガリネズミやスローロリス、コウモリなどがいる。

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