「富士山消しゴム」 ヒットを生んだデザインの力

日経クロストレンド

19年7月に限定発売された「青富士」と「赤富士」。2層の樹脂で構成されており、消しゴムをバランス良く使っていくことで富士山のような姿が現れる
19年7月に限定発売された「青富士」と「赤富士」。2層の樹脂で構成されており、消しゴムをバランス良く使っていくことで富士山のような姿が現れる
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一見、何の変哲もないただの四角い消しゴム。しかし使い込むうちに角が削れ、真っ白く冠雪した富士山の勇姿が現れてくる。ありそうでなかったアイデアを形にしたプラスの「エアイン富士山消しゴム」は発売前からSNSなどで大きな話題となった。富士山の開山日である2019年7月に限定発売されると、市場から「瞬間蒸発」。好調な売れ行きからその後定番化されるなど、人気が続いている。

エアイン富士山消しゴムの秘密は、2層構造にした樹脂が削れることで中心の白色部分が露出し、雪化粧した富士山のように見える点にある。数量限定で発売された「青富士」「赤富士」の2色は一時は出荷が全く追いつかず、公式サイトで品薄のおわびを出すほど人気が過熱した。

プラスによると、同社の「消しゴムカテゴリー商品」の売り上げは前年同期比で約200%に伸長。価格が1個200円(税別)とやや高めの商品で、しかも消しゴムという成熟した定番文房具のジャンルでここまで人気が勢いづくのは異例だ。富士山消しゴムの人気をきっかけに、「30年以上続くエアインシリーズの消字性能が再認識され、取扱店が増えている」(プラス)という相乗効果までも生み出した。

文字を消すことが楽しくなる

富士山消しゴムの開発者である製品クリエイティブ本部の本木礼夫冴(もときれおが)氏は、「人が日常的にマイナスに感じているものをデザインの力でプラスに変換したかった」と開発の経緯を語る。「間違えた文字や答えを消す」というネガティブな行為をいかにポジティブに変えられるか。そんな視点から富士山消しゴムを考え出したという。

「文房具に限らず、機能や価格だけで勝負する時代はすでに終わっている。モノの価値だけでなく、体験などのコトをどう付加できるかがこれからのものづくりには必要」(本木氏)。富士山消しゴムは、単なるおもしろグッズや玩具ではなく、利便性や実用性があることが重要だと語る。

本木氏が大学院時代に開発した他の商品にも、その考えは表現されている。15年にある雑貨店で販売された「鳥のうんちシール」は、その名の通り鳥のフンの形をしたステッカー。自転車のサドルなどに貼り付け、盗難防止に役立つことをうたった。20年3月から鳥のうんちシールやサドルカバーの資金調達プログラムを行ったMakuakeのサイトでは、シールを貼った自転車を無施錠で駅前に放置したところ5日間盗まれなかったという実験結果も紹介している(目標金額の225%を達成し、プログラムは終了)。

クラウドファンディングサイトのMakuakeで資金調達プログラムが行われた「鳥のうんちシール」

富士山消しゴムも、本木氏が大学院時代から温めていたアイデア商品だ。消しゴムの先端が使うほど山のように丸くなることから思いつき、どうすれば消しゴムが富士山に見えるかなどについて研究を重ね、原型となる試作品の制作にこぎ着けた。クラウドファンディングでの資金調達や文房具メーカーとの交渉などを試みるが、残念ながらうまくいかずに一度は断念。その後、就職活動でプラスに内定が決まり、入社前にこのアイデアを会社側に提案したが、やはり条件に見合わずお蔵入りした。

ところが意外なところでチャンスが転がり込む。入社から3年半後、本木氏が消しゴム部門の担当に抜てきされたのだ。そこで富士山消しゴムのアイデアを再び提案したところ、商品化がようやく認められたという。紆余曲折(うよきょくせつ)の経緯から分かるように、当初は誰もがここまで富士山消しゴムの人気が出るとは思ってはいなかったようだ。

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