
睡眠医学の常識が否定された
それによると、平均して10歳年を取るごとに、1晩の総睡眠時間は約10分短縮(例:20歳代から70歳代までに1時間短縮)、中途覚醒時間は約10分増加(同1時間増加)、寝つきにかかる時間は約1分延長(同6分延長)するという。
例えば、20歳の時に7時間寝床に入ってその大部分を眠って過ごすことのできた人は、健康なまま70歳代を迎えれば、寝つきはほとんど変わらず、寝床で目を覚ましている時間は1時間程度、正味6時間ほど眠れるということを意味している。これは70歳代という年齢を考えれば十分に質の高い眠りであるといえる。
また、今回の研究でもっとも注目されたのは、睡眠の深さが加齢によってほとんど変化しないことが分かった点である。
・浅いノンレム睡眠(最も浅い段階1)は10歳年を取るごとに0.5%の増加(%は睡眠時間全体に占める割合)
・深いノンレム睡眠、レム睡眠については有意な加齢変化なし
これまで、深いノンレム睡眠は加齢とともに減少するというのが睡眠医学の常識であったが、今回の研究ではそれが否定された。睡眠時間自体が短縮するので、深いノンレム睡眠の実時間は短くなるが、睡眠全体に占める割合は全く変わっていなかったのである。
今回紹介したような睡眠データはよく整えられたコンディションで測定して得られたものである。実生活では若者と高齢者では就床時刻も異なるし、寝室の環境も違うので研究報告書の字面通りにはいかないが、健康でいる限り、睡眠の老化のスピードは比較的ゆっくりしているといえそうだ。
ただし、多くの睡眠研究者や医療者にとっては、今回の研究結果は臨床的な実感とは異なると感じただろう。というのも、私たちが普段診察している患者さんや、講演会などでお会いする地域の高齢者の睡眠の様子と印象が大きく異なるからである。病院を受診したり、睡眠関係の講演会に足を運ぶ方々では、夜中に3度も4度も目覚めたり、夜明け前に目覚めて二度寝ができないなど、睡眠の加齢変化が極端に強く出ていることが多い。睡眠ポリグラフ検査の結果を見ても、深いノンレム睡眠がほとんど出現しない人も稀ではない。