トップは泣いてたらダメ ウソでも前向きが社長の仕事ほぼ日 糸井重里社長(下)

――「健康に考える」の健康とは、どういう意味ですか。

「健康というのは、植物標本の絵を描くのに似ていると思っています。花の特殊な部分だけを見て描くのではなくて、その花の特徴を捉えて描きますよね。何となく特徴や典型が分かっている。健康も、心臓は何をするものなの? 人間ってこうやると疲れちゃうの? というのは、案外みんな無意識で分かっている」

「もし人を裏切ったとして、裏切ってよかったと思うのは相当不健康ですよね。でも、文学にはそれがある。人ってそういうことをやっちゃうんだ、と知った上で、やらないようにしようと思うのが心の健康だと思います。嫉妬もある、ひがむ、ワナをかけてやろうという気持ちもある、全部あるけど、そういうことをしないで生きられる方が自分も楽だし、人にも喜ばれる。それなら健康でありたいね、という感覚ですかね」

毎日やる仕事があるので、「まるまるお休みという気分にはならないです」という。でも「家では仕事も大してできないので、本を読んだり、映画を見たり、犬の散歩をしたり」が多い。一番好きな趣味は釣りだが、「あんなに忙しい趣味はないので、今はしていないですね」。家事は「かみさんが手伝いが必要な料理をするときには手伝うか、みたいな。これって、あまり役立たずの旦那の役をしているだけですね」

「広告のクリエーティブ(制作物)で『それ、何時代の人が喜ぶ?』って言い方があるんです。例えばコーラを平安時代の人が飲んだらどうでしょう。僕らも初めてコーラを飲んだときはウワッと思った。おそらく平安時代の人もウワッと思うだろうなと。不変ということです。時代とか、状況を超えた、不変的な人というのを考えているわけです。それを体や心に応用したのが健康という概念じゃないかな」

――尊敬するリーダーはいますか。

「いっぱいいますよ。その人に欠点があっても、僕はチャームポイントだと思うんです。リーダーじゃなくても、子どもが遊んでいるときの姿とかでも、僕は心から尊敬します。そこが僕のいいところですね。だから、リーダーのこういうところに感心させられた、というのは、いっぱい心のメモ帳にあります」

「あえて1人挙げるとしたら、プロ野球巨人の監督だった故藤田元司さんかな。僕はジャイアンツの追っかけでした。遠征までついて行って、同じ旅館に泊まって見ていましたから。あの人も退学寸前になった『不良』だったけど、思いやりがあって、クールに勝つためのことができて、なおかつ勝ち負け以上に大事なことが野球にはあるんだよ、っていう人です」

チーム全員が「いいプレーにはすかさず拍手」

「巨人のスター選手の吉村禎章さんと他の選手が衝突して、双方がケガした後です。吉村さんが復活した試合について、僕が藤田さんに『よかったですね』と言ったら、『でもね、まだ終わりじゃないんだよ』って。『(もう一方の選手が)まだ悪者になったままなんだよ。彼がもう一回試合に出て、ヒット1本でも打てたらこの話は終わるんだけど』と。そういうことを言える人になりたいじゃないですか、格好いいよね」

「普段の藤田監督は選手や球団職員と一緒にご飯を食べたりして、全く平らなんです。給料や活躍の多寡、あるいは年次で偉い偉くないがあるんじゃない。皆がお互いに尊敬できるところを分かっている。そういうチームに僕には見えたんです。僕らの仕事でも、他人のいいプレーにすかさず拍手を送るような、そういう健康な会社にしたいですね」

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糸井重里
1948年群馬県生まれ。法政大学文学部中退、コピーライターとして「おいしい生活。」など有名なコピーを多数生み出したほか、作詞や文筆など多彩に活躍。98年サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、「ほぼ日手帳」などヒット商品を生む。2002年に個人事務所を株式会社化し、16年に「ほぼ日」に社名変更、17年ジャスダック上場。

(笠原昌人)

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