巨人像は廃材生まれ 北欧神話のトロル、世界の公園に

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/7/26
ナショナルジオグラフィック日本版

アーティストのトーマス・ダンボ氏が木を再利用してつくったトロル。デンマーク、コペンハーゲンのトゥリーネ地区にある丘の上で撮影。人々が自然を散策し、環境問題を意識するきっかけになることを願い、ダンボ氏はこうした作品を創作している(PHOTOGRAPH COURTESY THOMAS DAMBO)

デンマーク、コペンハーゲンの倉庫の棚に17の巨大な頭が並ぶ。「私が殺したわけではありませんよ。次のプロジェクトを準備中なんです」と、作者のトーマス・ダンボ氏は笑う。ダンボ氏は「リサイクルアート活動家」を自称する遊び心あふれる芸術家で、廃材を使った巨大なトロルの屋外作品で知られる。

それぞれの頭は高さ1~2メートルほどで、コミカルだが少し恐ろしい表情を浮かべている。近い将来、同じく巨大な胴体の上に乗せられ、ダンボ氏のインスタレーション「グレート・トロル・フォーク・フェスト」として、各地に展示される。

ダンボ氏はこれから数カ月で、ボランティアとスタッフの助けを借りながら(そして個人からの寄付で資金を賄い)、全部で10体の巨大な像を組み立てて設置する。高さ約4~6メートルの巨人たちが、小さな島や公園など、デンマーク全域の知られざる緑地にそっと設置される予定だ。

準備が完了したら、設置場所に関するヒントがソーシャルメディアで発表される。「一種の宝探しです。この夏、大きな旅行に出掛けられないデンマークの家族たちへの贈り物です」とダンボ氏は話す。「身近な場所にこのような美しい場所があることを、巨人たちが教えてくれるでしょう」

ダンボ氏は2014年以降、世界各地の緑地や公園に、民間伝承からインスピレーションを得た木の像を何十も設置している。コペンハーゲンのヒッピー居住地クリスチャニアに座る顎ひげを蓄えた巨人、米国フロリダ州のパインクレスト・ガーデンズで「迷子」になったトロルの姉弟、韓国のソウル郊外に置かれた木の巨人たち(そのうち1体はフルートを吹いている)。

どの像も設置場所で調達した廃材を使用している。プエルトリコでハリケーンから建物を守った合板は「島の番人」に、デンマークでは落ちていた枝や小枝がトロルの逆立った髪になった。

「捨てられるものにも価値があることを知ってほしい」とダンボ氏は話す。「巨人たちがそれを実証しています。また、子供のころに聞いた伝説を人々に伝える手助けもしてくれます」

「恐ろしい怪物」だった神話のトロル

北欧の人々にとって、トロルはどこにでもいて、どこにもいない存在だ。

トロルは昔から古代スカンジナビアの神話や詩に登場していた。古くは12世紀のアイスランドまでさかのぼることができる。「大きくて醜いトロルもいれば、美しく魅力的なトロルもいます。私たちに似た部分もありますが、根本的には異質で危険な存在です」と、米カリフォルニア大学バークレー校で古代スカンジナビアを専門とするジョナス・ウェレンドルフ氏は説明する。

初期の文学や物語では、トロルはしばしば、森に暮らす凶暴なモンスターや賢く恐ろしげな番人として描かれている。トロルは私たち人類に2つの教訓を与える存在だった。1つ目は、村や城の向こうに広がる未知の世界は不確かで、危険が待ち受けている恐れがあること。2つ目は、リスクを冒して未知の世界に踏み出せば、知識や富が手に入る可能性があることだ。

「危険を冒して荒野に繰り出せば、金や経験など、価値ある何かを持ち帰る可能性が高いということです」とウェレンドルフ氏は説明する。「トロルは脅威をもたらしますが、勇敢に立ち向かえば、何かを得ることができます」

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