失業率と自殺者数には相関がある

日本では、失業率と自殺者数との間に一定の相関が存在する。深刻な不況に襲われて失業率が大きく上昇した際には、自殺者数も急増する傾向があるのだ。過去の失業率と「経済・生活問題が理由の自殺者数」の関係をみると、失業率が1%ポイント上昇すると、驚くべきことに、自殺者数が1800人程度増加する傾向がある。

感染症の拡大から国民の生命を守ることは重要だが、感染症の拡大防止を目的とした休業要請などを背景に経済の急激な縮小が続くと、自殺者の増加によって、また違う角度から国民の尊い生命が奪われることもあり得る。

例えば、わが国で緊急事態宣言が全国で1カ月間行われると、個人消費は4.5兆円減少し、失業率は1.2%ポイント上昇、失業者数は82万人増加する。「失業率が1%ポイント上昇すると、自殺者数が1800人増加する」という相関を単純に当てはめると、もし雇用対策が全く講じられなければ、わが国で緊急事態宣言が1カ月間行われると、2160人の自殺者が発生する懸念があるのだ。日本政府は、これだけの犠牲を国民に強いていることを肝に銘じた上で、今後、緊急事態宣言を再発令するか否かを、決断すべきだ。

感染症の拡大抑制と、社会活動・経済活動の持続可能性(サスティナビリティ)の両者をバランスよく視野に入れて、どういった社会・経済活動を、どの程度認めていくかという点に関しては、科学的知見を踏まえた上で、具体的な数値基準を含んだガイラインなどを提示し、国民に予見可能性を与えることが肝要である。

感染症にレジリエンスの高い社会の3条件とは?

最終的にわれわれが目指すべきは、感染症の「制圧」ではなく、むしろ感染症と「共存」できるような、「感染症へのレジリエンスがある(耐性の高い)社会」であるのだが、それは一体、どのような社会なのだろうか?

それには、次の3つの条件が満たされる必要がある。

第一に、感染症に対する検査体制や、医療体制が整備されており、「医療崩壊」のリスクがないこと。具体的には、持病や疾患があり重症化のリスクが高い人や、高齢者などに対して、重点的に高度医療が提供されるような状況をつくり上げなければならない。科学的根拠に基づき、緊急性の高い患者を優先的に処置する、いわゆるトリアージ(治療の優先度決め)という発想が重要だ。

日本は、主要先進国に比べて、ICU(集中治療室)の整備が遅れており、それを問題視する声も多い。日本の人口10万人当たりのICU病床数は18.5で、中国の3.6、韓国の10.6、イタリアの12.5こそ上回っているものの、米国の34.7より大幅に見劣りする。ドイツはもともと29.2だったが、既に50程度まで増やしたとみられている。

検査体制の整備・拡充という観点からは、PCR検査のみならず、抗原検査(PCR検査同様、現在の感染の有無を調べる検査。短時間で行えるが、PCR検査より精度は落ちると言われている)、抗体検査(過去の感染の有無を調べる検査)などをバランスよく拡充することが肝要だ。また、感染症の治療薬やワクチンの開発などに向けた、国際的な連携が欠かせない。各国がお互いに責任をなすりつけ合うのではなく、感染症という人類共通の敵に対して、スクラムを組んで立ち向かわなければならない。

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