LiSA音楽急上昇1位 好きでいてくれる人を裏切らない
社会現象となったテレビアニメ『鬼滅の刃』の主題歌『紅蓮華』。2019年末の『第70回NHK紅白歌合戦』で披露したことで、その知名度は一躍全国区に――"ロックヒロイン"の二つ名で、アリーナ2daysも即完売するLiSAが、2020年版タレントパワーランキングで「急上昇ランキング」の総合8位、歌手・ミュージシャン部門ではトップという大躍進をみせた。現在の心境をインタビューで語ってくれた。
10年にテレビアニメ『Angel Beats!』の劇中バンドのボーカルを担当。翌11年4月にソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。その後、『Fate/Zero』、『ソードアート・オンライン(SAO)』『魔法科高校の劣等生』シリーズなど、数々の大ヒットアニメの楽曲を手掛け、激しくもメロディアスなロックサウンドと伸びやかな歌声でアニメファンの間では絶対的な存在だった。今年はデビュー10年目。まずは、自ら作詞も行った『紅蓮華』の大ヒットへの思いを聞いた。
「『紅蓮華』は最初から『鬼滅の刃』の主題歌として制作したのですが、主人公たちがいる鬼殺隊も、敵の鬼たちも、それぞれに悲しみがあるなと感じたんです。悲しみがあるからこそ強くなった鬼殺隊に対し、悲しみにのみ込まれてしまったのが鬼だとしたら、自分自身はどちらにもなり得ると思いました。
この言い方が正しいかは分からないですが…"負け側の始まり"だなと。勝利からのスタートではなく、家族を鬼に殺されてしまった不幸を背負ったところから始まる主人公の物語。私自身も、(デビューまで)恵まれた環境にいる側ではなかった。だからこそ、這い上がる強さや『強くなりたい』と願う気持ちが芽生えるのかなと考えながら、この曲を作りました。
作品プロデューサーからはバトルシーンに似合う楽曲を求められたのですが、ジャンプ作品とはいえメジャーコードではなく、スピード感はあるけど重厚に、と(作曲の)草野華余子さんと話をしました。歌詞はいつも最後に書きますが、CDでは『♪ありがとう悲しみよ』としているところをアニメバージョンでは『♪何度でも立ち上がれ』にしているんです。1話から流れるのに、『ありがとう悲しみよ』というのは(主人公の)炭治郎の気持ちとしてまだ早いと思い、この形になりました」
19年のLiSAは、『紅蓮華』の前から絶好調だった。18年12月に14thシングル『赤い罠(who loves it?)/ADAMAS』が発売。『ADAMAS』は、6度目となる『SAO』シリーズ×LiSAとのタッグで、配信デイリー23冠、オリコン最高2位などを記録。19年12月には16thシングル『unlasting』をリリースしている。今回のタレントパワー急上昇に現れた自身の近年の動き、変化をどのように見ているのか。
「これまでと一番違う反響は、『紅蓮華』を子どもたちが歌ってくれていることですね。『♪どうしたって~ほにゃらら~』って(笑)。ちゃんと歌詞が分からなくてもメロディーを口ずさんでくれている。私はSNSをたくさんやっているので、ネット上のファンの子たちや、周りにいる人たちが教えてくれて。それがとてもうれしいです。
『紅白』初出場は自分でもびっくりしましたね(笑)。その時代を築いた、その年にみんなが知っている曲を作った人たちだけが立てる舞台という認識だったので、本当にたくさんの人に聴いてもらえているんだな、と一番実感できました。歌い終わった後、舞台袖で嗚咽するぐらい泣いてしまって。『紅白』へのファンのみなさんの気持ちも感じましたし、会場の雰囲気も温かくて感動したし、いろいろな気持ちを連れてあの舞台に立たせてもらったなと思います。本当に(『紅白』で)めちゃめちゃ変わりましたね。お母さんにやっと認めてもらえたのもそうですが(笑)、1つ、自信をもらいました。トロフィー、大きな勲章というか」
『紅蓮華』は配信開始から1年経った4月29日発表のオリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで返り咲き1位を獲得するなど、異例のロングヒットに。
「長く、たくさんの人に愛されているんだなということを実感します。そのときだけでなく、長い時間みんなが聴き続け、楽しみ続けてくれているというのは音楽の在り方としても正しいと思うんです。
私はアヴリル・ラヴィーンがすごく好きですが、彼女の1stアルバム『Let Go』を何年も聴きまくっていて、そのCDが一番の思い出。そんなふうに、『紅蓮華』という曲が、時代を超えて誰かの大切なものになれた気がしますね」
LiSAはデビュー以来、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也から楽曲提供を受けるなど、ロックを歌うソロ女性アーティストが少ない昨今、"ロックヒロイン"として注目されてきた。アニソンとロック、これから――彼女の求める音楽とは。
「私自身は子どもの頃(日本の)アニメを見てきたタイプではなくて。『美女と野獣』のベルに憧れて幼少時はミュージカル、R&Bが好きで、学生時代はパンクバンドをやっていました。それが『Ang el Beats!』という作品に関わることで、アニメを好きな人たちの真っすぐな気持ちって素晴らしいなと思ったんです。何者でもない、それまで知らなかったはずの私を、自分の好きな作品に関わる1人として無条件で愛してくれた」
自分は何者で、何ができるんだろう
「私がパンクバンドでやっていたのって、自分の感情の発散、受け入れられない悔しさとか、『自分は本当はこうなのに、『女だから』って言わないでよ』みたいな、自分らしさを表現するための手段だったんです。それが、『Angel Beats!』で初めて、受け取ってくれる人という対象ができた。その人たちに対して『自分はどんな歌を歌っていきたいのか』と考えるようになったんです。
ソロデビュー前にそのことを考えて――すごくおこがましいけど、いつかこの曲を聴いた誰かが今を愛せたらいいなと思って『Believe in myself』(※)という曲を作りました。ここからLiSAは始まっているんだと思います。そして、1stシングル『oath sign』では、『Fate』シリーズという作品の大きさに恐れをなしつつも、『何も知らない私がやるからには、誠意や責任感が必要だ』と覚悟を持って挑みました。アニメを見てきた人間じゃないけど、どれだけ作品に愛情を込め、ファンと向き合えるか。
※デビューミニアルバム『Letters to U』(11年)に収録
転機となった曲はたくさんありますが、あえて挙げるとすれば、1つめは『Rising Hope』(14年5月)。初めての日本武道館ライブで挫折を経験した後で、『音楽で返したい」と田淵先輩と相談して作り上げた曲です。そして初めてバラードに挑戦した『シルシ』(14年12月)。激しい曲が多かったなか、圧だけじゃなく感情で歌う――『SAO』シリーズにたくさん関わらせていただいたからこそ、《マザーズ・ロザリオ》編のエンディングに対してこの曲が書けたんだなと。アニメとLiSAの心の置き方をずっと勉強していたのが、この2曲でアニメを歌うLiSAを見いだせるようになりました。
ロックを選んだのは、好きだったのはもちろんですが、『自分は何者で、何ができるんだろう』と模索していった先にあったから。ロックサウンドの表現の仕方が自分には一番合うなと自覚していましたし、バンドの経験を生かした表現をアニメでできたらきっと楽しんでもらえると思ってやってきました。全部つながっているんです。
今、思うのは、LiSAというアーティストを1つひとつ積み重ねていくこと。そして、LiSAを好きでいてくれる人たちを裏切らないように――ワクワクさせたいんです。楽曲のはかなさや身を削るように歌う過剰な表現方法から、『いつかいなくなっちゃうんじゃないか』とファンを心配させてしまうこともあるんですが、『大丈夫だよ、いなくなんないよ』って。
『LiSAのライブに行くと元気になるよね』とか、『楽しい音楽を作ってくれるに違いない』とか、そんな期待を裏切らない存在であり続けたいと思っています」
(ライター 山内涼子、日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2020年7月号の記事を再構成]
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