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ヒトは密にならずにいられない 進化の歴史が語る理由

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ナショナルジオグラフィック日本版

2020年6月、ジョディアンさんと婚約者は「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」の抗議活動に参加するため、米ウィスコンシン州ミルウォーキーに向かった。途中、通りがかった屋外カフェは食事を楽しむ客でいっぱい、ミルウォーキーの街も、警察の暴力に声を上げる人々であふれていた。みな、他人との接触で自ら健康を害する危険を冒していたことになる。

ジョディアンさんら参加者は、自分たちの行為にリスクを負うだけの価値があると判断したのだろう。しかし、新型コロナウイルスがいまだに世界を席巻し、連日何万人と感染者が増加する中では、デモ行進にせよ、会食やその他のどんな集まりにせよ、参加するかどうかの判断は難しくなっている。

参加を選択する人々の中には、新型コロナウイルス感染症の深刻さを否定する人もいるだろう。一方で、ウイルスの危険を認識している人も、他人との接触を続けている。

私たちは「社会的」であることをやめられない。それは進化的なパラドクスのせいかもしれない。

脳に埋め込まれた行動

はるか昔、私たちの祖先にあたる霊長類は、協力することで安全を確保するようになった。捕食者から身を守り、生存の可能性を高める社会構造を作ったのだ。集団が複雑になってくると、それにともなって祖先たちの脳も複雑になり、社会的交渉に対して報酬を与える仕組みが神経回路の中に形成された。

社会的交渉は、私たちの祖先が生き残るうえで非常に重要になった。それゆえヒトの脳は、社会的交渉への依存症状態になりやすいように出来上がったのだろう。つまり、人と接したいという根源的な欲求を乗り越えることは、何百万年分の進化的プログラミングに抵抗しようとすることと同じなのだ。

「すべてのサルや類人猿がそうであるように、私たちは極度に社会的です」と、英オックスフォード大学の進化人類学者ロビン・ダンバー氏は言う。「私たちは日々の生存と繁殖の成功のために、集団レベルでの協力に頼っています。それこそが霊長類にとって最大の適応的な進化なのです」

新型コロナウイルスは、そうした社会的交渉への私たちの依存につけ込んで感染を広げてきた。しかし、私たちが進化にともなって獲得した欲求のなかには同時に、他人との距離を保つ「ソーシャルディスタンシング」の鍵も隠れているかもしれない。利他性や互いを守ろうとする欲求だ。

ヒトはどのように社会性を獲得したか

およそ5200万年前、鳥をのぞく恐竜はすでに絶滅し、夜型だった霊長類の祖先たちは徐々に昼間に行動するようになった。しかし、メソニクスというトラに似た捕食者がうろつく中で、単独性だった霊長類たちは、集まることで安全を確保するようになった。

時代の経過とともに、祖先たちはますます社会性を強めていき、食事や狩りを共にするだけでなく、毛づくろいや集団での子育てをするようになった。こうした社会行動を取らない個体は集団からの保護を得られず、子孫を残す前に死んでしまうことが多かった。

 社会行動を取る個体が生存し、子孫を残すことで、霊長類は徐々に社会的な動物へと進化してきた。現生のヒトにも、そうした社会行動の多くが残っている。

毛づくろいを例に挙げよう。ダンバー氏が「時間コストの高い」行動と呼んでいるように、霊長類は1日に何時間も毛づくろいし合う。毛づくろいに時間を費やすことは、その個体が集団に投資していることを示すことになり、絆を強めたり社会的順位を保ったりするメリットがある。

絆が強ければ強いほど、個体の生存の可能性は高まる。例えばチンパンジーは、普段から毛づくろいをし合う相手と食物を分け合う傾向がある。こうした行動は、心地良さを感じさせるメカニズムによって強化されてきた。毛づくろいによって、痛みの軽減、リラックス効果、多幸感をもたらす神経伝達物質のエンドルフィンが放出されるのだ。

ヒトには、特定のゆっくりとしたスピードで軽くなでられることに反応する「C触覚線維」というものが備わっている。母親が子供の髪の毛を触るようなちょっとした行動は、祖先たちの毛づくろいの痕跡をとどめている。

「もちろん私たちには、毛づくろいをするほどたくさんの毛はありません」とダンバー氏は説明する。「そこで、同様の効果を生むために、なでたり抱き締めたりする行動を進化させたのです」

祖先たちの脳が大きくなるとともに、集団のサイズも大きくなって社会が進化した。しかし、もはや全ての個体同士が毛づくろいをし合うような時間はなくなった。そこで、エンドルフィンを放出させる新しい社会行動を作り出すことで、より大きな集団が結束できるようになった。ダンバー氏の研究によれば、そうした行動には、笑い、歌、踊り、会食、そしてもっと新しい時代では宗教的儀式や一緒に酒を飲むことなどが含まれる。

社会行動によって放出される脳内麻薬物質のエンドルフィンは、モルヒネに似た作用を示すため、依存症を引き起こす可能性がある。私たちが友人と談笑しながら食事をすることを楽しむのは、こうした脳内の報酬系が活性化され、何度も繰り返したくなるからだ。しかし、報酬系はエンドルフィンだけで動いているわけではない。

「エンドルフィンを放出させるものはなんであれ、ドーパミンも放出させるんです」とダンバー氏は言う。ドーパミンは動機付けや運動制御をはじめ、多くの神経機能に関わっている。「ドーパミンには興奮作用があり、一定のレベルになると依存症になる可能性があります」。つまり、パンデミックという脅威があるにもかかわらず人に会いに出かける人々は、社会行動から得られる心理的および神経化学的な報酬の中毒になっているのかもしれないのだ。

シェアすることはケアすること

一方で、ヒトには資源や経験を分かち合いたいという基本的な欲求がある。「まだ言葉を話せない幼い子どもでも、木に止まっている鳥を指差して、そちらに目を向けさせようとします。私たちは経験を共有せずにはいられないのです」と、米デューク大学の教授で進化心理学者のマイケル・トマセロ氏は言う。

こうした欲求は、進化のうえで有利だったことから生じている。トマセロ氏が14年に発表した総説論文によれば、ヒトと他の霊長類との最後の共通祖先が、他個体と協力して採食していたことが示唆されるという。のちにヒトは、食料採集や狩猟に参加しなかった集団メンバーにも食物を分け与えるようになった。

一部の研究者たちは、ヒトが他の霊長類よりもずっと利他的であると考えている。トマセロ氏や、米アリゾナ州立大学の霊長類学者ジョーン・シルク氏もそうだ。ヒトの社会では、たとえ直接的なメリットがなくても、食物を分け合ったり労働を分担したりする。私たちは共感によって動機付けられているのだ。こうした行動の変化は、生態学的・環境的変化によって食物が少なくなることで促進された可能性がある。「協力するか死ぬか、という状況だった」とトマセロ氏は書いている。

とはいえ、ヒトの親切心にも限度がある。シルク氏と進化心理学者ベイリー・ハウス氏の論文によれば、私たちは、社会的または文化的つながりを持つ他者に対して、より利他的にふるまう傾向がある。のちにその人がお返しをしてくれそうな場合はなおさらだ。

ヒト集団同士の競争が激しくなると、私たちの祖先は外敵や部外者から身を守るための知識を、相手を選んで共有するようになった。「あなたと私でアンテロープ(レイヨウ)を狩ろうとしているとき、私が槍(やり)として使えそうな木の棒を指差したとします。前にも一緒に同じことをした経験があれば、あなたは私の言わんとしていることがすぐにわかるでしょう」。トマセロ氏はそう話す。「きっとあなたは棒を拾い上げ、私たちはまたすぐに歩き始めるでしょう」。氏は、集団内の経験に基づくそうした共有の知識が、ヒトの文化の起源だと考えている。

人付き合い中毒を癒やす

現代のヒトにとって、報酬系を刺激する社会的活動や体験の共有をやめることは、最も原始的な欲求に抗うことに等しい。しかし、それは不可能ではない。

トマセロ氏は、例えばソーシャルメディアは、共有したいという欲求を発散させる最良の場ではないかと言う。デジタルでつながることは、実際に会うことと同じではない。抱擁してエンドルフィンを分泌させることはできないからだ。それでも、太古の祖先たちが社会的な絆を作ってきたときと同じ報酬系を利用することはできる。画面越しに噂話をしたり、冗談を言い合ったりすることは、友人と夕食に出かける場合と同じようにエンドルフィンを放出させてくれる。

人に会うことの心理的依存を乗り越えるハードルは高い。だが、それはやろうと思えばできることだとダンバー氏は言う。ソーシャルメディアは、すでに存在する絆を強めることにも役立つが、ツイッターやTikTok(ティックトック)などを利用してグローバルなやりとりに参加することは、親しい人のみの社会集団を越えたつながりを作ることにも役立つ。

この危機の時代、自分の日常世界の外にいる人々とつながることは、自分と似ていない人々との絆を形成させてくれるという意味で極めて重要だとダンバー氏は言う。こうした絆を作ることで、私たちは利他的にふるまう素地を作ることになる。私たちが原始から受け継いだ脳は、新たな知人を部外者ではなく、仲間として認識するはずだからだ。そして、場合によっては、そうした共感的な関係を作ることで、進化的に組み込まれた欲求に抗い、他者を守るという選択をしやすくなるかもしれない。

(文 REBECCA RENNER、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年7月5日付の記事を再構成]

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