コロナで増えるAO・推薦志望 受験生に必要な心構え
大学入試改革と新型コロナ禍というダブルショックに見舞われている受験生。志望者が増えている「総合型選抜」(旧AO入試)と「学校推薦型選抜」(旧推薦入試)は夏から秋が本番だ。異例ずくめの年、受験生はどんな不安を抱えているのか、どう立ち向かえばよいのか、高校生や教育関係者を取材した。
6月下旬、受験関係者の間でちょっとした衝撃が走った。
慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の総合政策学部・環境情報学部が今年の夏と秋に実施するAO入試(2021年度入学者対象)の実施要項を公表。そこには大方の予想に反し、従来通りの入試スケジュールが記されていたのだ。
夏選考の場合、オンラインでの出願期間は7月1日から8月中旬まで。郵送による出願書類の提出が8月中旬、2次選考・合格発表が10月初旬。昨年とほぼ変わらない日程だ。もともと文部科学省は総合型選抜の出願を、去年までより1カ月ほど遅い9月1日以降と決めており、新型コロナ禍による休校の影響を踏まえ、さらにそれを2週間遅らせる方針を打ち出していた。
「コロナの影響で、入試は先延ばしになるとばかり思っていたので、いまちょっと焦ってます」(SFCを志望している都内高校の男子生徒)
大学入学共通テストも、追試として「第2日程」が新たに設けられたとはいえ、本試験は1月16、17日と当初の予定通りと決まった。9月入学論が盛り上がった頃がうそのように、入試スケジュールは振り出しに戻った感がある。肝心の受験生たちの心境はどうか。
学校推薦に希望殺到
福島県の公立高校3年の女子生徒はため息交じりに言う。「ただでさえ初めての共通テストで不安なのに、休校で勉強も遅れてしまいました。2年生までに3年分の全範囲を終わらせてしまう都会の進学校の子と同じ土俵で戦うなんて、もう無理だとあきらめました」
受験を控えた高校3年生200人を対象に実施した「受験生への新型コロナウイルスの影響に関する調査」(ODKソリューションズが4月実施)でも、7割を超える受験生が、「(休校期間の長さや授業の進むスピード、オンライン授業の有無など)学校ごとの対応の違いに不公平さを感じる」と回答。コロナの影響で受験方法の見直しを検討している受験生は約3割に上り、そのうち6割以上が早期に実施される総合型や学校推薦型の受験を検討していると答えた。
前出の女子生徒も、一般選抜を受けるつもりだったが、今は学校推薦を強く希望している。だが気がかりなのは、校内の推薦希望者が例年になく多いことだ。「先生たちが一般選抜はリスクが高いからと熱心に学校推薦を勧めるので、みんなそっちになびいてしまって。自分より成績のいい子が同じ大学を狙っていそうだと不安になるし、生徒がお互いをライバル視してしまって志望校については話せない雰囲気。人間関係が悪化してしまった子たちもいます」
旺文社のデータによると推薦入試(公募推薦・学校推薦を含む)の志望者は20年度に54万3千人と、5年前と比べて約10万人増加。共通テスト導入を前に、浪人を避け、手堅く合格を狙う「安全志向」が高まった昨年は、指定校推薦の志望者が前年比11%増の大幅増となり、中でも成績上位者の利用が増えたという。AO入試も募集枠の拡大に伴い、志望者は5年前の10万人から14.8万人へと5割近く増加している。
オンライン選考にも戸惑い
昨年以上の「超安全志向」が指摘される今年。都内でも指折りの中高一貫の進学校の進路指導担当教員によると、一般受験で難関校に十分受かりそうな生徒が、早々と指定校推薦に手をあげているという。
「休校期間中に面談ができなかったので、一人で不安を募らせてしまったのか、本人はペーパーテストが得意で、プレゼン能力や活動実績が求められる総合型選抜向きではないのに『総合型を受けたい』と言い出す生徒もいます。でもどこの大学・学部の総合型なのかを聞くと曖昧な答えしか返ってこない。なんとかリスクを回避したい一心なのでしょう」
コロナの影響で一部の大学が導入するオンライン活用型の入試も受験生にとっては悩ましい。前出のSFC志望の男子高校生が心配するのは、今回1次選考の提出資料として課された「3分間のプレゼンテーション動画」だ。コロナの感染状況によって2次面接ができなくなった場合に、1次選考のみで合否を判断する材料として、新たに加えられたものだ。
「何しろ前例がないので、普通に画面に向かってしゃべればいいのか、それともインパクト重視で編集して作り込んだほうがいいのか、全く見当がつきません」と戸惑いを隠せない。
「どの入試形態も重なる部分が出てくる」
さまざまな不安が渦巻く中、受験生はこの夏をどんな心構えで乗り切ればよいのだろうか。AO・推薦専門の個別指導塾「洋々」代表の清水信朗さんと同塾ゼネラルマネジャーの江口輝亨さんに受験生からの質問をぶつけてみた。
――活動実績としてアピールしようと思っていた大会が中止になり、書く材料が減って困っています。
「総合型選抜ではもともと、何かの全国大会で優勝したとか、華々しい実績を求めているわけではありません。大学は、目標に向かうプロセスの中で何を得たのか、それをどうこれからの大学生活や将来につなげていこうとしているかを知りたいのです。ですから大会がなくなって目に見える順位や資格を示せなくても、これまで頑張ったことを書けばいいのです」
――一般選抜との併願も考えていますが、総合型の入試が遅くなったので、一般選抜の受験準備が間に合わなくなるのではと心配です。
「行きたい学部・学科が明確にあり、そこが総合型や学校推薦型を取り入れているのなら、志望校の合格チャンスを増やすことにつながるのですから受けない手はありません。新型コロナの第2波、第3波がくれば一般選抜の日程が再度狂う可能性もあります。そのリスクヘッジにもなります」
「次の入試以降、一般選抜でも記述式の問題が増えると見込まれています。これまでのように総合型・推薦型の受験準備と一般選抜の準備は別物ではなくなり、重なる部分がかなり増えます。併願はやり方次第で十分可能です」
――一般選抜のための勉強と総合型の準備、比率はどのくらいがベストですか?
「一般選抜に7~8割、総合型に2~3割が目安です。今年は夏休みを2週間くらいに短縮する学校も多く、例年なら予備校の夏期講習でみっちり一般選抜の準備をするはずが、思うようにできずに焦りを感じるかもしれません。でも多くの大学が総合型の出願書類の提出期限とする9月はいや応なく来るので、8月についてはかなりの時間を総合型の準備に充てる覚悟をしたほうがいいでしょう」
――志望理由書の書き方がわかりません。
「よく見かけるのは、大学の紹介ページを熟読して『こういうところが魅力的だから志望しました』と書くパターン。ですが、大学はそもそも自分たちがいいと思うポイントをアピールしているわけで、それを受験生から改めて強調されても、試験官の心は動きません。大学が知りたいのは、あなた自身のことです。専門学校に行くとか就職する選択肢もある中で、なぜ大学に行きたいのか、なぜその大学・学部でなければいけないのか。何を目指していて、その実現のために大学の用意した環境をどう使い倒そうとしているのかを知りたいのです」
「今の段階で言葉にできていなくても、この大学が良さそう、という直感は案外正しいものです。なぜいいと思うのかを突き詰めて考えることで、自分が大事にしてきた価値観・世界観も見えてきます。他の人と対話してみることも助けになるはずです。対話の相手は、親や学校の先生だと彼ら自身の感情や願望が紛れ込んでしまうので、できれば関わりが少ない第三者のほうが望ましいです」
(石臥薫子)
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