君も「サイエンスアスリート」 科学五輪で10代躍動

2018年に日本で開かれた「国際情報オリンピック」の表彰式。87カ国・地域から335人が参加した(茨城県つくば市)=情報オリンピック日本委員会提供
2018年に日本で開かれた「国際情報オリンピック」の表彰式。87カ国・地域から335人が参加した(茨城県つくば市)=情報オリンピック日本委員会提供
地球温暖化、感染症のパンデミック(世界的な大流行)……。現代社会の難題は科学の知見が必要なものばかりだ。「理科離れ」が懸念されて久しい日本の若者は、そんな時代にどう向き合えばいいのか。科学の知識を深め、発想を磨き合い、課題に挑む人物を「サイエンスアスリート」と呼び、彼らに学ぶ新企画。だれもがサイエンスアスリートになれることも教えてくれるはずだ。

10代のサイエンスアスリート憧れの大舞台は「国際科学オリンピック(科学五輪)」だろう。数学、物理、生物学など7分野それぞれで毎年開かれる大会の総称。世界の高校生らがホスト国に集い、知識と発想を競い、友情を培う。筆記や実験のテストの成績上位者には金銀銅のメダルが授与され、有望な研究者として学会や企業の注目を浴びることにもなる。

日本は参加大会が現在の7分野に増えた2008年以降、毎年26~31個のメダルを獲得。19年は成績上位者の1割に与えられる金メダルが10個となり、とくに地学五輪では、出場した4人全員が金という快挙を演じた。

そんな日本にとって20年からの4年間には特別な意味がある。生物学、化学、物理、数学の順に大会ホスト国となることが決まっており、20年7月には「国際生物学オリンピック(生物学五輪)長崎大会」が開かれるはずだった。新型コロナウイルスがパンデミックになるまでは――。

生物学五輪、リモートで決行

「完全な中止じゃなくてホッとした」。全国4340人の中から生物学五輪代表の座をつかんだ4人のひとり、高知学芸高校(高知市)の金久礼武(かねひさ・れん)君の率直な声だ。コロナ禍による大会中止も覚悟した4月下旬、「リモート開催」を知らせるメールを受け取った。生物学の魅力を「わからないことが多く神秘的なところ」と語る高3生は「自分の力を試す機会を得られたのはうれしい。受験勉強と両立させながら、少しでもいい結果を残せるよう頑張りたい」と決意を新たにした。

大会組織委員長の浅島誠・東大名誉教授は「生徒のために何としてもやりたかった。コロナ禍の今だからこそ生物学五輪をやるべきだとも考えた」と語る。当初は開催に消極的だった欧州の大会本部も、リモート実施に伴う不正防止策など日本側の詳細な提案を受け入れ、ゴーサインを出した。50を超す国・地域が参加を表明。8月11日からの2日間、世界の代表たちは自国にいながら試験に臨む。

リモート開催ならではの新しい交流プロジェクトを打ち出したのも、海外の関係者の心を動かした。あえて出身の違うメンバー4人のグループをつくり、1カ月程度をかけて共同研究してもらう。各グループは「進化」「生物多様性」「ゲノム編集」「感染症」からテーマを選び、母語の違う生徒同士がオンラインで議論しながら、具体的な課題を設定し解決策をさぐる。成果は研究者らが採点し、優秀なものは広く公表する。

浅島委員長は「感染症だけをみても地域によってとらえ方がまったく違うだろう。国を超えてひとつの研究に共同で取り組む経験は、より視野が広くユニークな発想につながる」とみる。社会や文化の相互理解も進むため「これからの国際大会のあり方のひとつを示すことにもなるのではないか」と期待する。

7分野それぞれの国内運営団体を統括する日本科学オリンピック委員会(事務局・科学技術振興機構)によると、20年に世界各地で予定されていた科学五輪のうち、生物学、数学、化学、情報の4大会はオンライン技術を活用してリモート開催されることになった。物理、地学、地理は中止となったが、物理について日本はリモート開催の「ヨーロッパ物理オリンピック」に参加することを決めた。「なんとしても国際大会に参加したい」という生徒の強い希望があったという。

生物学五輪に続き日本開催が決まっていた大会は、現在のところ開催方針に変わりはない。ただ物理五輪は1年延期となったことから、21年の化学五輪の次は23年に数学と物理の2大会が開かれることになっている。

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